其の百八十四 さようなら

文字数 1,242文字

……

「ユキちゃん。」

……

「ユキちゃん…」

……

「ねぇってば……」


-―――――――――――

別館

「鹿島…ッ、刑事……ッ……。」

蓄積された疲労と苦痛と毒は、桜刑事の体を蝕み、もはや立つことさえ許してはくれなかった

何もできていない劣等感と、迫りくる敵からの圧力、
そしてそれをたった1人で相手取る鹿島刑事への申し訳なさが、彼を支配していく

足でまといなりたくない気持ちとは裏腹に、

「桜、俺は大丈夫だ。
なにも心配せんでいい。」

鹿島刑事からの気遣いが、彼を苦しめて、歯がゆくさせていくだけだった――

「まったく、
クリスマスのときくらい、エロ本エロビデオを一挙制覇するワシの願いも、
お前シャンを殺さないとなにもかもおしまいですねぇい!!」

鹿島に群がる兵士を押しどきながら、
紫色のヌラヌラとゴツゴツとした3Mほどの巨体を動かしながら、
タコは襲い掛かった

巨体から放たれた鉄拳は、朱目の兵士ごと、そのフロアに大きな亀裂を入れ込んだ
廊下の窓ガラスが震動で粉砕され、外界にガラスと臓物の雨を散らす

「あれま、避けたんですかい?
まったくここの人間はとても生身とは思いましぇん。
人力でヘリコプター撃ち落とすわ、
車でこの別館に突っ込んでくるわ、ほんとうに人間ですかい?」

「あいにく、覚悟ってヤツが違うのさ……ッ。」

鹿島は冷や汗をかきながら、
静かにゆっくり呼吸を整えて、目の前の怪物を対峙する――
それが鹿島にとって託された【誇り】だからである

-―――――――――――


人は自分の手で未来を決めることができる、
そう言いたいのか?
は、そんなことあるはずないだろう。
自分で選択してきただと?
そんなもの、周りの環境によって、仕方なくそこに落ち着いただけだ
人間にとって【自由ほど恐ろしいものはない】。
そしてそれは、お前とて同じだ
メアリー


空っ風によって、彼女の髪が乱れて目元に掛かる


お前もまた、あらゆる要因によって、【蒼】になっているにすぎん
そうでなければなぜ、
記憶喪失の分際で、命が張れるのだ?


まるで対話だった
これまで【朱】と戦ってきたことはあったが、
この目の前の男は、これまでとは違っていた
見境なく、命令されたから、ではなく、
明らかに自分の意思を以て、そこに出で立っているのが伝わる


【自分の道を真っ直ぐ進め】


「私は、
なぜ自分がここにいるのか、
それを理解しているつもりだ。」

【勝って来いよ】

髪をかき上げて、彼女は本音を口にした
それがメアリーにとって、唯一の【真実】だからである


-―――――――――――


男は崖を上って、再びに地に足を付けた
さきほどとは異なり、目には確かな意思を
迷いはなく、後は無く

「………」

それが上崎レイジにとって遺された【愛】である


-―――――――――――

喉の奥がギュッと詰まった

いま目の前の光景が夢なんじゃないかと、
錯覚を起こそうとする

血圧が一気に上がって、心臓に潰すように、
闇が圧迫を促す


「うそ……―――」


先日まで
笑顔で折り鶴を作っていた鹿島ユキは
心臓を止めていた


そして、早妃カズミの唯一の【希望】は消えようとしていた
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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