其の百五十九 遺志を継ぐ者

文字数 1,209文字

「11月のあのときはまだ学校があったんだ。
でも島の治安も悪くなってるからって理由で休学する前日だったんだよね。
鐘がなって、放課後になったことは覚えてるんだけど、そこから寝ちゃったみたいで。」


「寝ちゃったって昼寝ですか? まぁ25校は進学校で厳しい生活って聞きますけど。」


「いや なんだろうねあれって。 こう、つっかえ棒が外れたみたいにストンって意識が無くなったみたいな。」

ナナは眉にシワを寄せる。

「そっからよ。
気が付いたら、火の海のど真ん中の、ホール内だったわけ。
こうして話してるけど、そのときはパニックでさ、来た覚えのないところにいるわ、他の生徒も泣き叫ぶわ――ねぇ?

僕も泣きたかったけど、一応は生徒会だから、【ロングちゃん】と【ウルフちゃん】と連携してなだめてたってわけ。

あれはもう校舎が焼き崩れて死ぬかもって思ったんだけどね。

ただ、そんな地獄みたいなところに、戦ってる人間がいたんだよ。

右手には【久木山レン】ってやつが多勢を相手に1人で戦って、

左手には【雨宿スイ】がガレキと炎に揺られながら、―――と戦ってたんだ。」



最後のところはいまいち聞き取れなかったが、そこに踏み込んではいけないとナナは察する。


「そこから【福栄シンゾウ】が目を真っ赤にしながら、僕たちを救出誘導してくれんだ。
いままで何気なく生徒会って同じ組織だったけど、なんだか一気に遠い存在に感じちまったよ。
僕にはできないね。 人のために命を賭けるなんて怖いもん。」


彼は1つため息をつくと、ポケットから1つのスマホを取り出した。


「――これは……?」

「雨宿スイの遺体のそばに、奇跡的に残っていたらしいんだ。
あのガレキと炎に飲まれて圧死したとき、どんな気持ちなのかは計り知れないけど、
そのときにこの画面を開いていていたみたい。」


その画面はあるメッセージアプリだった。

その相手の名前は【諫早ナナ】と表示され、『あ』という文字だけ打ち込まれている。


「それが意味のある『あ』なのか、ガムシャラにやった『あ』なのかはわからない。
でも、君に託すことにしたよ。」

「え、で、でも……、ご家族にわたされたほうがいいんじゃ――」

ユルユルと揺れる瞳をみながら、ヨウは口を開く。

「スイに親はいないよ。 赤ちゃんポストって聞いたことある?
カイ、レン、スイ、この3人は親に必要とされなかったから、孤児院で育ったらしいよ。

だから――初めて愛を持つ人肌を教えてくれた君と会えて、嬉しかったんじゃないかな。」


彼はスマホを託すと、黒いヴァイオリンのケースを背負う。


「行くんですか――?」

「近いうちにセレモニーに出演するんだ。 
小さいコンサートだけど、この状況でも曲を弾けるんだ。 お客さんをガッカリさせるわけにはいかない。

なにせ聖夜セレモニーだ――クリスマスプレゼントは煌びやかほうがいい。」


堤ヨウは振り返らず、諫早ナナを置いていった。



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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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