其の百四十八 GOODBYE YELLOW BRICK ROAD

文字数 1,615文字

「あの領域は、人間だったら凍死するほどの温度になっているだろう。
そんな冷気のなかで、熱エネルギーを維持できる時間はほんの一瞬にしかない。
残されたのなかで失敗をすることは許されないんだ。」


真夜中だった辺りが若干の明るさを持つ。

星々は光のなかに霞んでいく。


「氷を操る宮城キョウコは、その造形力を使って近、中、長のすべてに攻撃が届く。

これに対して黒豹は、物理攻撃で差を詰めるべく、唯一の利点であるエネルギー量を頼りにギリギリのアタックゾーンに突入するしかないんだ。

視覚、聴覚、嗅覚――体にある五感の感覚のありったけを注ぎ込んで、フルパワーに変えていく。」



大槌と剛爪がぶつかって、一抹の花火を作り出す。

本人たちは散る火花を己に重ねて、猛攻を繰り出していく。



「【死】すら恐れることができなくなった欠陥品だからこそできる、奇跡的なパフォーマンスの連続だ。」

「黒豹は――諦めてないんですね…。」

ルシフェルは腕を組み、やがて来る最後に心を構える。

「【諦める】などという感情はないだろう。
いま、あいつの意識は、肉体と一体化している。それだけだ――。」




目の前から大槌と大斧が襲い掛かってくるなか、剣や銃、さらには氷板によって反射してくる氷弾が360度 全方位からやってくるなか黒豹はもはや守ることはせず、突き進むことを選んでいた。

領域に落とされてから熱は刻一刻と無くなっていた。

消費量をカバーするために、さらに呼吸を多く、荒くしていくが焼石に水である。

しかし、一度止まれば死に凍らされる。

しかし、進めばエネルギー切れを起こし死という穴に飲まれる。

なら、自分で受け入れることを選んだ。

所詮は不自然に得た仮初の命。

悪辣なる命。

だからこそ成せる 絶望的な状況への反抗であった。


数学 科学 能力任せの余力ある戦闘で、ヒット&アウェイに徹する宮城キョウコ。

黒豹にとっては命がけの特攻で作り出した攻撃チャンスも、宮城にとっては数センチの隙間から、苦もなく距離を取り戻すことができたのだ……。



-―――――――――――-―――――――――――

purr purr

「もしもし桜ですけど…。要件ならあとで……ってメアリーさん…?
どうしたんですかこんな朝早くに。いまちょっと手が離せないんで後でで良いですか?」

桜は4人の高校生とともに、黒猫(ラック)の捜索を行っていた。
とりあえず24区避難キャンプ辺りを捜索していたが、手がかりを得る事ができていなかった。

こうなると当然焦りも隠せなくなってくるが、この電話によって進展することになる。

「え……?
はい、――はい。11区ですね…、分かりました。」

桜は落ち着くために深呼吸して、不安げ目を浮かべる大浜ナオミと目を合わせた。


-―――――――――――-―――――――――――


「……ッ! ……!!」


万物を嚙み砕く牙も、全てを切り裂く爪も、パキパキと音を立てて剥がれ落ちていく。
天を衝く赤き怒髪も灰のように染まっていく。



(よくここまで戦い抜きました。褒めてあげます、まるで曲芸よ。

でも、ダラダラとした熱エネルギーももうじき消える。

次の攻撃をかわして 100%フルパワー!!

私自身もここからが全開よ。一瞬で終わらせてあげる。)


力を無くした黒豹の手が振り下ろされたとき、宮城はバク転すると腕で大地を押し上げるようにして、空へと返り咲いた。


朝陽がスポットライトの役目を果たす。


衝撃が走った川の水が猛烈な勢いで凍り付いていき、黒豹の体を飲み込んでいく。

「ガァ――!? ァ、アア!!」

その唐突さに焦った黒豹は、反射的に息を乱す。

「―――」

その際にミスファイアの調節に失敗。

勢い余った熱エネルギーは肺胞、毛細血管をいっきに逆流し、自分の肺と心臓を潰す。

血と氷と酸欠により、視界はインクのように滲んでいき、辛うじて見える景色のなかで当の女の姿はなかった。


「確殺できる策とはお世辞にも言えないけど。
あなたを殺すことなら、十分よ。」


黒豹の天と地が回転して落ちていった
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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