其の百七十二 彼女は最強!!

文字数 1,886文字

10月 24区戦線 

宮城キョウコは完膚なきまでにルシフェルに敗北した

パワーもスピードも敵わず

得意とする冷気も、彼の気のバリヤーによって通じず

(……―――)

あっけなく死を待つだけであった

三尾アヤカが助けなければ


-―――――――――――-―――――――――――


だが、そのわずかな期間のうちに 宮城にはまた新しい側面がつくられていた

幸せになるために

強くなるために

勝つために



――パワーが劣れば上げればいい

――遅ければ早くなればいい

――凍らなければ凍らせればいい

――弱ければ、強くなればいい



それだけだ



「なんだと……ッ?」

ルシフェルの声が戦慄する

その表情にご満悦なのか顔を赤らめながら、見せつけるように体を広げた



「フフフ……光栄に思いなさい――!!
私の進化を見れるのは、貴方が最初で最後だぁぁぁああああ!!!!」


宮城の圧倒的な気迫に、地面が震え、岩山が重力に逆らってうなりを上げていく


「ハ――アアアア………!!!」

女の胸部は内部から破裂したように急激に膨らみ始めた
それに合わせて、腕や 足も 巨大化し始める

その質量に足が地面にめり込み、衣服は冷気に晒されて塵と化していった

首の血管がムカデの様に醜くうごめいていく

束ねられた髪は自由に向かって逆立ち純白へと染まり、口もとは笑いを象徴したよう耳まで裂けていった


「な――っ、すげぇ気だ……いままでとは全くの別人……!!」


3メートル以上に巨体へと進化し、もはや女という面影も無くなっていた

「さぁ……始めましょうか……!!」

カシャンと 隠すように口もとに氷のスカーフが巻かれ 

兵器の起動光の如く 濁った朱い瞳が照らされた



地面が陥没し宮城が浮き上がった
その巨体さに押しつぶされるイメージを抱いたルシフェルは、一瞬で上空に逃げ込んだ

「……グぁ――っ!!」

アリ地獄の様に埋まっていく高層ビルを見ていると、突然 彼の腹部に膝がめり込んでいた

横殴りの強烈な力により、そのまま連れ去られていき、47区外れの海沿いの岸壁に打ち当てられ、真冬の海に落された

水面が大きく揺らいでいく中、宮城は彼の場所を見定めるようじっと留まり

「――!!!」

弾けたように海に突撃していく

その衝撃に海は50メートルほど、上に向かって爆散し

「う…ああああ……っっ」

ルシフェルの体を右手だけで捉えていた




「ハハハハ―――!!!
楽しませてくれるわね!!!」



海で体をビチョビチョに濡らし、肩で息をするルシフェルはなんとか宮城の元へ戻ってきた


「はぁ……はぁ……―――ッッ!!!」

彼は気を一気に開放すると、宮城の前から姿を消した

残像すら見せない超スピードで距離を取るなか

彼女は明確な意思を持って裏拳を繰り出す

「ぃ――ッ!?」

それは的確にルシフェルの顔面に炸裂していた

だが、そんな状況でもルシフェルはうろたえることなく再び姿を消して攻撃を行った

彼女の視線すら動かすことは敵わなかったが

「ク……――!!」

この情勢に勝機を持てなくなった彼は、宮城の姿を目に入れながら、後退していく

(誤算だった……! ヤツがここまで力を上げていたなんて考え――)

「どこにいくのぉ??」

ドスンと何か硬い物体が背中に当たる
自分より巨大で強大で、冷酷な空気がまとわりついてきた

「なによ? 【救済の代行者】の力はこんなもんなの??」

「……こっのぉぉ!!」

顔は見らずともわかるこの声音に、ルシフェルは冷や汗を流しながらもガムシャラの蹴りを放った
しかし、分かっていたように彼女はルシフェルの後ろ側に回り込むと、剛腕な両腕で彼を地面に殴り落とした

「う……っ!!」

地面に墜落した彼は脳みそがぐらついた状態で膝に手をついて、ずっしりと立ち上がるが、その目線の先には、潮水と土砂を舞い散らして、突っ込んでくる女の姿が飛び込んできた

息絶え絶えの男の腹部にまたしても鉄拳がめり込まれ、岸壁に押し当てられる

3メートルに巨大化した女の影響で、ルシフェルの足は地面から離れてだらりと垂れ下がる体制になっていた

それでも満足したりないのか、宮城キョウコは手を胸倉に持ち替えて、ルシフェルをそのまま大地に押し付けた

「――っ……!!??」

ミシミシと音をたてて大地に亀裂が入っていくなか、さらに宮城は力を上げていく

「落ちろ ルシフェル・ミラ・イース」

そうして決壊するが如く大地は真っ二つに裂けていき、代行者を飲み込んでいった

亀裂は大きく広がり
地面だけでなく海面を割って 聖書モーセに出てくるような滝を生み出した

「クク……フハハハハハ!! 最高だ!! 最高の気分よ!!」

宮城キョウコは踊り出す勢いで大笑いを上げた

「この私が――私がこそが……宇宙最幸だ――!!!」
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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