其の百九十九 胸に咲く優しき薔薇

文字数 1,190文字

「うわああああああ!!
やめろぉ‼
これ以上電話を掛けて来るなぁ!!

「きゃああああああ!!
朝っからうるさいわよ!!

早妃はグッタリとした顔で、看護師と目を合わせた

「ああ…。
ビックリした。
なんか電話ばっかり掛かってきてその度に呼び出された夢を見たんですよ。」

「なんですかその夢は。
まるで社畜じゃない。
悪夢よりかはマシだとは思うけどね。」

「マシですかねぇ?
なんかすっごく暑いところで、
定時すぎても洗車やオイル交換ばっかりだったような。」

看護師は呆れたような、でも安心したような顔で衣服をぽさっと置いた

「でも良かったですよ。
クリスマスからそんなに経ってないのに、元気になられて。
ユキちゃんのことは気の毒だったわ…。
私も、忙しかったとはいえ、お友達のまえで物騒なことばかり……。」

看護師の暗い顔に、
早妃はキラっとした笑みを見せる

「いえいえ。
あの状況だったら仕方ありませんよ。
この病院も死傷者で溢れかえって。
毎日毎日、生と死ばっかり見てると、
自分が死にたくなっても仕方ありません。」

「早妃さんって、…。
いいえ…。
すごく大人に見えちゃって。
看護師として情けない限りだわ。」

「そう言ってくれると嬉しいですよ。
ただちょっと…。
ブラのホックが、引っ掛からなくって……。
手伝ってくれません?」


聖夜の決戦から約一か月が過ぎた
残酷無比の朱を撃退とはこれ以上の収穫はなかったが、
喜べるほどの現状でもなかった

島は甚大な被害を負ったが、星は廻る

人々は骨となり灰となった死者に敬礼を示し、
前を歩くぐらいしかやることはなかった

「共通テスト。」

「共通テスト?
あー、センター試験の改名版ね。
1月15日、16日にあったらしいわ。
そうね。島がこんなんでも、本島は日常をずっと送ってるからね。
退院したレン君もカイ君も受けたんでしょう。
でも酷かったらしいわよこのテスト。
数学なんて、全国平均38点よ!
この年の受験者は気の毒ね…。」

「……。
看護師さん、そろそろ。」

首元にキュっとアナログなリボンを垂らしながら、
折り目のついたスカートを揺らす
結ばずに真っすぐに落とすは、濁りの無い髪
瞳に宿るは人の証の純黒

「目…、黒に戻ってよかったわ。
ここはもう、赤色だとみんな怖がっちゃうから。
ここを退院ってことだけど。一人で大丈夫なの。
早妃さんが良ければここに居てもいいのよ。
入院費は県が賄ってくれるから。」

看護師の心配に
ふたたび早妃は笑みを戻して、ローファーを履き直す

「大丈夫です。
私はもう大丈夫ですよ。
みんな頑張ってるんです。
なら、私も進まないといけないでしょう?
みんながやっているなら私もね。」

看護師はなにも言わず、大人びた早妃を見送るのみとなった

彼女らはもう会うことはない
なぜなら世界が終わるからである
二か月後には

これから少し語るはその前日譚に位置づけとなる、

「いまから迎えにいくね。
マドカお姉ちゃん。」

救いの姉と滅びの妹
その邂逅である。
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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