6-2.えらく可愛い女の子だ

文字数 956文字



 新学期を迎えた朝。日焼けした生徒たちが賑やかに挨拶を交わす中、船岡和美も中川美登利のもとに飛んで来た。
「美登利さーん。会いたかったよ」
 坂野今日子もにこにことついてくる。

「夏休みつまんなくてさあ、坂野っちも暇そうだったから一緒にプールなんか行っちゃったよ」
「間違えないでください。船岡さんがしつこいから私が一緒に行ってあげたのですよー」
 うっすら小麦色の和美に対して今日子は日焼けもせずに真っ白な肌のままだ。
 なんだかんだ仲の良いふたりに美登利は苦笑する。

「さてさて、肝心の池崎少年は時間までに来るのかな」
 うきうきと校門の方を窺い見る和美。
「池崎くんが遅刻しないかどうかクラスの男子と賭けたんです」
 今日子の説明に美登利は眉をひそめる。
「だってさあ、池崎くんの校門前ダッシュ、名物だよ、もはや名物」

「和美さんはどっちに賭けたの」
「それはもちろん、あたしは池崎くんの根性を買ってるからね」
 また池崎正人か。いつの間にやらどうなっているのか。もやもやした気分で嘆息する美登利を、坂野今日子がじっと見ていた。




 今日はやばかった。夏休み中には早寝早起きで実に健康的にすごしていたのに、今朝にはまた目覚めが悪くて自分でも不思議だ。
「心理的要因てやつじゃないか?」
 からかうクラスメートに馬鹿抜かせ、と返す。正人がそんなにナイーブだったことなどない。

「委員会行かないのか?」
「やだよ、始業式からなんで」
「帰省のお土産置きに行くんだよ。坂野さんにお茶入れてもらってさ、みんなで食べよう」
「やなこった」

 片瀬修一と森村拓己と押し問答していたから正人が昇降口に下りたのはあらかたの生徒が下校した後だった。
 あくびをしながら靴を取り出していると、

「ねえ、ちょっと」
「……」
「ねえったら!」
 うるさいなと振り返ったがそこには誰もいない。首を傾げているとシャツの裾を引っ張られた。
「どんくさい人ねえ」

 女の子がいた。付け加えるならば、えらく可愛い女の子だ。
 スカートに段々の付いた白いワンピースを着ていて、さらさらの長い黒髪にレースのリボンを結んでいる。黒目の大きな瞳がまっすぐに正人を見上げている。
「ねえ、聞きたいことがあるの」
「って、おまえどこから入ったんだよ」
「ここからよ。見てわからないの? どんくさいうえに目まで悪いのね」
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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