9-6.どういうことだ

文字数 854文字




「始まったみたいだ」
 風紀委員会室の窓からピロティーの方を窺った綾小路はその場にいた委員を呼びつけた。
「ケガ人だけは出ないようにしないとな。何人か連れて巡回に行ってくれ」
「はい」
 まったく、修学旅行から戻ってすぐにこの騒ぎだ。仕事をしているのは自分だけとはどういうことだ。
 めずらしく愚痴っぽいことを思ってしまい綾小路はいかんいかんと眉間を押さえた。自分も疲れているのかもしれない。こっそりと綾小路は考えた。




 防音の重い扉を開いて図書館に駆け込んだ正人は、探し回るまでもなく窓ガラスに張り付けられた紙を見つけた。取り外し、二つ折りにされたそれを開く。中には『第三実験室』の五文字。
「よし」

 さっさとその場を退散しようとした正人の前に四人の男子生徒が立ちふさがった。図書委員会の一年生たちだ。
「待て、池崎。図書館にあるものはすべて図書委員会が管轄するもの」
「よって貴様の身柄を押さえさせていただく」
「なに言ってんの? おまえら」
 ぽかんとしている正人に問答無用でかかってくる。それをかわしながら正人は怒鳴った。
「図書館では静かに、だろ!」
「おまえが黙れ」
「そうだ、おとなしくしろ」

 んな理不尽な。要するにこいつらは妨害工作員というわけか。
 それなら、と正人は思い切り体当たりをかまして彼らの包囲の外に出た。書籍を積んだ台車を押していた一年生の女子がびくっと正人を見る。
「ごめんな」
 一言投げかけておいて正人はノブを回して扉を押し開けた。

 とたん、待ち構えていた中央委員の男子たちがなだれをうってのしかかってきた。
「……っ」
 とっさに正人は身を屈め、スライディングで攻撃を潜り抜けた。そのまま目の前の階段を駆け下りる。

「くそっ」
 まだ始まったばかりだというのにこれである。油断はできない片時も。
「負けるもんか」
 理科実験室の並びへ向かいながら正人は大いに意気こんだ。
 ものの、第三実験室から体育用具倉庫、技術室へと回る間にも同様の妨害の数々をかいくぐり、次の指定場所へと向かう頃には正人にも疲れが見え始めていた。
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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