1-5.「お話しましょう。私が」

文字数 929文字

「でもさ、それだと大事になりすぎじゃない? 体育祭の準備も始まって忙しいところ余計な仕事を増やすのもさ」
 美登利がおとがいをかいて反論する。
「それならどうするんだ! このままでいいわけがなかろう。俺は許さんぞ」
「うーん」

「こんにちはー」
 タイミングよく森村拓己がやって来た。美登利はちょいちょいと拓己を手招きする。
「拓己くんさ、池崎くんのことだけど……」
 わかってます、という顔で拓己は肩をすぼめた。

「すみません、美登利さん。今日こそはって頑張ってみたけど、あいつなにをやっても全然ダメで」
「全然ダメ?」
「ダメですね。まったく起きないです。柔道部の先輩が窓から放り投げてやるか、なんて言ったけどほんとにやるわけにもいかないし。目覚ましだって五個も使ってるのに」

「まったくダメかあ」
「そりゃ困ったね」
 ははははは、と笑い合う美登利と誠を綾小路がものすごい目で睨む。

「……あー、とにかく、ね。放課後にでも連れてきて。池崎くんをここに」
「美登利さんがお話するんですか?」
「うん。お話しましょう。私が」
 にこっと美登利が微笑んだ。




「池崎」
 帰り支度をしていたところを呼び止められて、池崎正人は眠そうに顔を上げる。心持固い表情をした森村拓己が立っていた。
「一緒にきてくれる?」
「どこに?」
「美登利さんが呼んでる」
「美登利さん?」
「中央委員会委員長の、中川美登利さん」
「なんで?」
「なんでって……」

 わかってるでしょ、という顔をされたが正人にはわからない。
「遅刻の件で呼び出されるなら風紀委員にだろ。だいたいなんだよ、中央委員会って」
 ああ、と拓己はため息をつく。
「池崎は説明、なにも聞いてなかったもんね。噂もなにも知らないだろうし」

 歩きながら教えてあげる、促されて正人はしぶしぶ拓己の後をついて行く。

「中央委員会っていうのは、専門委員会のひとつだけど実質生徒会の直属部署と思っていいよ。生徒会の補佐をしたり何か問題があったときには中央委員会が駆り出される。だから他の委員会みたいに定員はないし、誰が所属してるのかもよくわからなかったりする。……池崎のことは、もう風紀委員会の手に負えないって判断されたんだろう」

 何度も注意はされてただろ、と拓己の声は少し冷ややかだ。
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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