17-2.「久々に見たな、あのどす黒いオーラ」

文字数 877文字

「三校……」
「西城、北部、江南。うちは武の方面ではまだ追いついてないから声がかからないのも仕方なかったんだけど。今年は北部が急に出場を辞退することになって、お鉢が回ってきたってわけ」

「種目は柔道ですか」
「持ち回りでね、今年はそう決まってるらしい。ところがうちの柔道部は弱小でしょう。交流を目的とした大会とはいえあんまりかっこつかないのも頂けないし、辞退するのもしゃくに触るし。そもそも……」

 一瞬くちびるを引き結んで美登利はちらっと目線を鋭くした。
「北部が辞退することになった経緯も不祥事沙汰のせいだっていうし、またもしかしたら……」

 携帯の着信音がした。皆が黙る。
「あ、ごめん」
 誠が自分の携帯を取り出す。着信者名を見てスルーしようとするのを横から宮前が取り上げた。
「高田じゃないか」

 西城学園高等部生徒会長高田孝介。青陵メンバーが目配せしあう中、それをまったく意に介さずに宮前がいきなり通話に出た。

「てめぇ気安く電話かけてくんじゃねえよ。……ああ? 宮前だよ、馴染みのくせにわかんねえのかよ。……は? 知ったことかよ。なんで誠が逃げなきゃならねえんだよ、出るに決まってんだろタコ。……てめえが大将ならこっちだって大将だよ、ったりめえだろ。……おお、てめえも篠田も首洗って待ってろタコ!」

 捨て台詞を吐いてすっきりした顔で宮前が携帯を戻そうとする。
 がしっとその腕を掴んで誠が立ち上がった。
「仁……なんてことしてくれた」

 その様子に他のメンバーは顔色を変えた。
(やばい)
(エマージェンシー)
(緊急退避)
 宮前を見捨てて一目散に廊下に出る。

 ぴしゃりと後ろ手に扉を閉めて美登利がふうーと息をついた。
「怖っ」
「久々に見たな、あのどす黒いオーラ」
「宮前くんも馬鹿だよねー」
 皆で歩き出しながら口々に話す上級生の後を一年生三人組もついていく。

「じゃあ、武道大会は参加ということで」
 ぽんと扇子で手を打って安西が嬉しそうに言う。
「そりゃ、あそこまでタンカ切ったらねえ」
「宮前の奴」
「ならば、やっぱり池崎くんには出てもらわねば」
 ぴっと扇子を向けられて正人は驚く。
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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