26-3.文化祭荒し

文字数 971文字




 さかのぼること数週間前、県外の暴走族が市内に出没しているという情報で、皆が喫茶ロータスに集まった。

「実際にかち合ったわけじゃないからな。どこの族かはなんとも」
「その龍王のやつら引っ張ってきなさいよ」
「大口叩いてるだけの連中、いちいち当てにして相手してられっかよ」
「確かにな」
 火の付いていない煙草を手持無沙汰に銜えながら志岐琢磨は腕を組む。

「気になるのは、その、文化祭の学校を狙って荒らしに来るという連中だな」
 顎に手をあてながら眉間を寄せる綾小路に美登利も同意する。
「その暴走族が文化祭荒しをやってるなら、この辺りの学校を物色してるってことだよね」
「夏に文化祭をやるのって青陵、西城、江南、暁秀、向陽……このあたりか。なんだ、四強ほとんどじゃん」

「見えない敵を警戒したって仕方ないだろう。その暴走族の連中に直接聞けばいいんだろう」
「あんたらが文化祭荒しですかって?」
 なんでもないことのように頷く一ノ瀬誠にそれはそうだと美登利も肩を竦める。

「となると必要なのは奴らの捕獲か。機動力が必要だな」
「できるか、宮前」
「もちのロンっすよ。タクマさん手え出さないでくださいよ」
「俺は俺で組織の方あたっちゃみるが」
「各生徒会に情報回してあげないと」
「どうせ西城はとっくに知ってんだろうけどさ」

 宮前も最善を尽くしただろうが、謎の暴走族と接触ができないまま一件目の事件が起きた。
「暁秀がやられた」
 文化祭当日にグラウンド内にオートバイの一団が侵入し一時騒然としたという。
「あそこはインターが近いからな。そのまま突っ込んでこられた感じか」
「そんで去っていったと」

「それなら向陽だって危なくない? 同じ手口でやられちゃうよね」
「向陽の学祭は今週末か」
「その次が江南、次がうち」
「こうなったら向陽に網をはるか」
「だな」
「江南からもヘイタイ出してもらわにゃ、悠長なこと言ってられんぞ」

 そうこうするうちに段々とわかってきた。
 まずは志岐琢磨の情報で連中の素性がわかった。

「セレクト?」
「あちこちのグループを追い出されたようなはねかえりが集まった集団らしい」
「落ちこぼれた連中が名乗る名前がセレクト? 馬鹿じゃないの」
「あー、なんかわかったわ。とにかく進学校の人間が気に食わないんだろうな。そんで学祭邪魔してやろうと。この時期学祭やるのは進学校だから、だもんな」
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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