12-2.なぜ知っている!?

文字数 879文字

「悪事だなんてかわいそうだよう、坂野っち。青春だよ、青春の甘酸っぱい果実をかじっちゃったんだよねぇ」
 いやーな予感がして正人は顔をしかめる。

「しあわせだねぇ、池崎くん。かわいいカノジョができちゃって。おめでとう」
「まあ、そうですね。おめでとうございます」
 にやにや笑っている船岡和美と、異様にクールな坂野今日子と。
 確実に、当分このネタでいじられる。正人はたらりと汗をたらした。



 青陵学院は、中等部と高等部を擁する私立の進学校である。創立されてから十年足らずと歴史はまだ浅い。この地域の古くからの名門校である西城学園と『西の西城・東の青陵』と並び称される所以だ。並外れた進学率とそこそこの実績で地域の衆目を集めているが、その神髄は極めて高い生徒たちの自治力にある。「克己復礼」を教育理念に掲げ、「清く正しく美しく」をモットーに自立心あふれる生徒たちが傍若無人に活躍する。大いなる可能性にあふれる…………要するに、異彩を放つ学校なのである。



「うっわ、まじ寒い」
「そろそろここでの作業も限界だね」
「今日中に完成を目指してがんばろー」
 おーっと屋上に集まった面々は震える拳で気合を入れる。

「澤村くん、やっぱやめときなよ。風邪ひいたらどうするのさ」
「そうだよ、クリスマス公演だってあるんだから」
 船岡和美と小宮山唯子が言い募ったが文化部長澤村祐也は頑として聞かなかった。
「やだ。今日は僕も頑張る」

 柔和で穏やか。だけど突然はがねのように頑固な一面を見せるときがある。
 知っている美登利は澤村に園芸作業用の手袋を差し出した。
「怪我だけはしないでね」
「うん」

 残る一番広い花壇にチューリップの球根を植えたら屋上庭園はいよいよ完成だ。
「ランダムに植えるからね。どんな色合いになるかはお楽しみ」
「いいですね! きれいですよ、きっと」

 がやがやと作業している合間に船岡和美がそうだ、と声をあげた。
「聞いちゃったよー、池崎くんたらカノジョにお花あげたりしちゃったんだってね」
 なぜ知っている!? 目を剝く正人の隣で森村拓己がパッと不自然に顔を反らし、園芸部女子たちが騒ぎ出した。
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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