27-2.「最後だもんね」
文字数 966文字
それでなくても、トレードマークの長い髪がなくなって見ている方だって悲しい。
「そうだよね」
不用意な自分の発言を反省して、和美はよしよしと今日子の頭に手を置く。
澤村祐也は彼女をどうやって慰めるのだろうかと頭の片隅で考えた。
「わあ、みどちゃん。可愛いね、とっても似合ってる」
本気の賛辞を贈ってしまってから、澤村祐也ははっと隣の一ノ瀬誠を見返った。
「あ、ごめんね。誠くん」
「え、なんで謝るの?」
「先に君のセリフ取っちゃったかと思って、ごめんなさい」
「うん、謝られる方が気に障るんだけどね」
「そうだよね、ごめんなさい」
「……」
微妙に力関係が露呈しているやり取りは無視して、美登利は楽器を準備している音楽部の様子を眺める。
「すごいね、去年まではなかった雰囲気」
「念願のコンサート、必ず成功させるよ」
柔らかな物腰の中に鋼の意志を潜ませて澤村祐也が言う。
「それじゃあ、私は服飾部に行くね」
「ほんとにいいの? みどちゃん、こういうの嫌いでしょう」
「準備期間中、なにもしなかったんだもん。これくらい役にたたなきゃ。最後だもんね」
「うん……」
見送って、澤村もつぶやく。
「最後だもんね」
合言葉か、と心の中で毒づいた誠だったが、彼だってやっぱり思ってしまうのだ。最後の文化祭だと。
仮装をしている者自体は珍しくなかったから、その一団が衆目を集めたのは音楽が鳴り始めてからだった。
無伴奏チェロ組曲第1番。チェロの生演奏に驚いて、一般客だけでなく生徒たちもそちらを見る。
バロック調ドレスにマスクをつけた貴婦人が、演奏に合わせてステップを踏みながら軽やかに跳びまわる。ドレスの裾がふわふわと広がって夢のように美しかった。
曲のラストに合わせて貴婦人が優雅にお辞儀をすると、わっと拍手と歓声が上った。
「音楽部一年、藤井純一くんの演奏でした!」
すかさずビラ配り隊が前に出てチラシを配り始める。
「音楽部コンサートは午後二時からでーす」
「服飾部ファッションショーは体育館にて開催です」
「服飾室ではドレスの展示と試着を行っています。写真撮影できまーす」
ビラ配り隊に後を任せて、実演部隊はこそこそと場所を移動する。
チェロと椅子を抱えて走りながら平山和明が訊いた。