26-7.想定内

文字数 968文字

 事前情報通りオートバイが六台目の前を通りすぎようとしたとき、回転している車輪の内部に向かって誠がドライバーを投げ込んだ。
 バイクが次々に横転していく。
(なんっつう危ないことを)
 固まっている正人の背中を宮前がぽんと叩いた。
「良い子は真似しちゃダメだゾッと」
 真似できねーし。

 わっと皆が松林から飛び出し、バイクの車体と乗っていた連中とを手っ取り早く道路上から回収した。
 後は何事もなかったごとく。

 松林の中でライダーの男たちはロープで手早くぐるぐる巻きにされた。
 口汚く罵る奴の口をガムテープでふさぎ、比較的おとなしそうな二人に宮前は尋問を開始した。

「テメエらこれで全員じゃないよな。メンバーはあと何人こっちに向かってる?」
「知らねえ」
「テメエらのリーダーは? 金指、だったか? こん中にはいないようだか」
「知らね……ッ」
 皆まで言わせず、宮前は胸倉を掴みあげた。

「おいおい、優しいオレ様が訊いてやってるうちに答えてくれや。でないと、こちらにおわす魔王様にお出まし願わなくちゃならなくなる」
「そうそう。魔王様は怖いよー」
「おまえらから締めるぞ」
「ね、ほら。怖い怖い」
 ぱたぱたと扇子を扇いで安西がうそぶくと、得体の知れなさに怯えたもう一人が口を開いた。

「金指さんは別動隊を連れて正門側に回ってるはずだ」
「そっちのが本体だったりする?」
「ああ」
 眉を上げて宮前たちは顔を見合わせる。
「想定内だな」
 目配せしあったとき、校舎を隔てた反対側でエンジン音が轟いた。



 校門前広場で作業していた生徒たちは息をのんだ。校門までの狭い路地を柄の悪いオートバイの一団が突き進んで来る。
 校門は固く閉ざされているがそれでも不安だ。思わず後ずさった女子生徒の肩に中川美登利が手をかけた。
「大丈夫だよ。怖かったら校舎に入ってて。他の子たちにも声をかけてあげてね」
「はい!」
 ほっとしてその女子生徒は回れ右する。

 見送って美登利は門扉の前に進み出た。片瀬修一が後に続く。
 先頭の車両が目の前に横付けに停まり、少年がメット越しにこちらを睨んでいるのがわかる。

「なんの用?」
「お高く留まった名門校の文化祭ってのを見学に来てやったぜ! さっさと開けやがれ」
「文化祭は明日だけど」
「出直せってのかよ」
「いいえ、そんな申し訳ないことはしないよ。今日で終わりにしましょう」
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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