22-3.「池崎くんだから助けたの!」

文字数 924文字

「ちきしょう、他にも証人連れてきてやる」
 ショートカットで斜面を下りようとするので正人たちは慌てた。
「馬鹿! よく見ろ、そっちは……」

 言わんことではなかった。目印をしておいたにも関わらず少年は足を段差に取られて転がり落ちた。
 斜面をそのまま車道まで落ちたりしたら大惨事だ。

 正人はとっさに少年の足に飛びついた。
 片腕で彼の足を抱え込み自分も滑り落ちそうになりながら斜面の地肌から飛び出ていた枝をもう片方の手で掴む。
 ぱきっと敢え無く枝が折れた。
(マジかっ)

 頭が真っ白になったとき、空を切る正人の手を段差から身を乗り出した美登利が掴んだ。
 両手で正人の手首を掴んで踏ん張るひざ元が崩れ、彼女も落ちそうになる。
 その腰を走り寄ってきた誠が抱き留めた。

「大丈夫!?
 拓己と青ざめた宮前も走ってきて、どうにかこうにか全員が引き上げられた。
 すんでのところで頭が走行するトラックに届きそうになっていた少年は目を回して倒れ込んでしまった。

「池崎……無茶するなってホントに……」
 涙目になりながら拓己が言うのに、美登利も額を押さえて首を振った。
「ほんとだよ」
「あんただって」
「私は池崎くんだから助けたの! そんな見ず知らずの奴に体張ったりしない」
「俺も」

 身もふたもなく言い放つ幼馴染ふたりの横で宮前が苦笑する。
「人が良すぎだよっ」
「まあまあ、それがこいつのいいところだろ」


 トラブルがあったものの、雑木林のタケノコもどうにかこうにか取りつくして、今度は翡翠荘にそれらを持って引き上げた。
 内庭の縁側で遅めの昼食をもらって解散になった。

「疲れた」
「ゴメンネ、あとはもうゆっくりできるからね」
「泊まらせてもらってんだし、これくらいなんでもないけど」

 正人と拓己が車道から林の脇道に入ろうとしていたところを、車のクラクションが呼び止めた。
 ワゴン車から淳史が顔を覗かせる。
「ふたりとも、おつかれさま」

「なんだ、その恰好は」
 驚いたことに後部座席には綾小路高次が乗っていた。
 更に横から顔を覗かせたのは、
「あんたはいつかの失礼なオトコね」
 黒髪に白いワンピースの美少女、錦小路紗綾嬢だ。

 また出たこのガキ、と顔を引きつらせる正人に紗綾はふんと眉をひそめてみせた。
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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