1-3.「品良く小粒に揃ってますって感じ?」

文字数 958文字

「えーと……」
「森村だよ。寮生の。こっちの片瀬は池崎とクラス一緒だよね」
 片瀬と呼ばれたほうが頷いているのでそうなのだろう。正人はよく覚えていない。

「一緒に座ろうよ。席自由なんだよね」
 空いている座席へ向かいながら、なんとなく舞台の上に目線をやると、
「……」
 目が合った。彼女と。笑った気がした。一瞬。

 すぐに彼女は視線を反らして舞台の袖へと引っ込んでいった。
 狐に睨まれたうさぎの気分。正人の野生の勘が警鐘を鳴らす。

「池崎、美登利さんと知り合い?」
 目ざとくも今のやりとりに気がついたらしい森村が尋ねてくる。
「美登利さん?」
「中川美登利さん。あの髪の長いきれいな人」
「ああ、昨日、少し話しただけ」

 ふーん、と森村はまだ話したそうな様子を見せたが、式の始まりを告げるアナウンスが流れてきたのでそのまま押し黙った。



「池崎、池崎」
 肩をゆすると正人はようやく頭を起こした。生徒会入会式の始まりから部活紹介の最後まで、ずっと寝入っていたのである。
 森村拓己は呆れ気味に正人の肩から手を離した。
「もうみんな移動してるよ」
「んー」
 伸びをしながら辺りを見渡し、正人は「悪い、悪い」とぼそぼそつぶやいた。

「部活の見学どうする?」
「帰ったらダメなのか?」
「終礼やってないからね、まだ。それまで見学の時間なんだよね?」
「そうだな」
 言葉少なに片瀬が応じる。

「おれ、教室で寝てるわ。部活も委員会もやるつもりないし」
 ばいばい、と手を振る正人をやはり呆れて見送るしかない。

「あんな奴のこと、どうして美登利さんが気にしてたんだろう」
「昨日遅刻してきたの、インパクトでかかったからな」
「あー」
 確かに、と拓己はやはり頷くしかない。

「ぼくは中央委員会室に行くけど片瀬はどうする?」
「行く」




「品良く小粒に揃ってますって感じ? 今年の一年」
「上手いこと言いますね」
 船岡和美の言葉にぷっと吹き出しながら坂野今日子がお茶を差し出す。受け取りながら中川美登利は眉をひそめた。
「品良くまとまりすぎてても考えもの」

「しっかりはみ出してる子がいただろう?」
 こちらもお茶を受け取りながら、生徒会長の一ノ瀬誠がのたもうた。

「ああ。一組の池崎正人」
「あの子ずうーっと居眠りしてたね! あたし放送室から見てて笑っちゃったよ」
 船岡和美がぺしぺしと机を叩いて喜ぶ。
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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