6-4.『呼び出しのお知らせです』

文字数 813文字



 見回りから戻ると、留守番をしていた一年生に「女の子が来ました」と報告された。
「女の子?」
 疑問に思う間もなく放送を知らせるチャイムが鳴った。

『呼び出しのお知らせです。綾小路風紀委員長、綾小路風紀委員長、よーく聞いててくださいね。「錦小路紗綾嬢の身柄は預かった。返してほしければ剣道場に今すぐ来ーい」以上、中央委員会からのお知らせです。それではよろしくー』

 小馬鹿にしたアナウンスは船岡和美のものだ。それを指示したのは当然、
「なぁかぁがぁわあぁ!!
 怒りも露わに剣道場に駆けつけると、そこには本当に錦小路紗綾がいた。壁際に置かれたパイプ椅子にちょこんと座っている。
 傍らには腕組をして中川美登利が立っている。

 綾小路が歩み寄るよりも早く、丸めた冊子をマイクに見立てて握りしめた船岡和美が進み出てきた。

「はいはい。来ましたね、綾小路くん。それではこれより、剣道部主将尾上貞敏くんと風紀委員長綾小路高次くんとの風船割り一本勝負を始めます」

 ばん、と和美が手を挙げた先には、竹刀を手に紙風船を頭に括り付けた尾上貞敏の姿。
「尾上……」
 あまりのことに綾小路は額を押さえる。
「なんだそのざまは」
「察してくれ、綾小路。俺だってこんなことをしたいわけではないんだ」

 硬派をもってなる尾上の苦渋の表情に綾小路は美登利の方を睨む。
 美登利がにこりと笑う。その横には綾小路のことをじっと見つめている紗綾。

「えーと、すみません綾小路さん」
 おっかなびっくりな面持ちで森村拓己が竹刀を差し出し、脇から片瀬修一が無表情に綾小路の頭にも紙風船を括り付けた。

 今日はほとんどの部活動は休みだが、それでも校内に残っていた生徒たちが何事かと集まってきている。

「見れば一目瞭然ですが、この勝負、先に相手の紙風船を割った方が勝ちとなります。一応言っておきますとね、これ剣道の試合じゃないですからね。ルールはないですよ。先に相手の風船割ったら勝ちです。いいですね」
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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