1-6.窓から投げ捨てようとも

文字数 922文字

 そういえば、と正人は疑問に思っていたことを尋ねる。
「三大巨頭ってなんだ?」

「生徒会長の一ノ瀬さん。風紀委員長の綾小路さん。それと美登利さんの三人のことだよ」
「二年生だよな、あの人たち」
「そうだよ。二年生にしてこの学校のトップ。それが三大巨頭」
 中央委員会室の前にたどり着いていた。



 いつも油を売っている生徒会長も、今はここにいなかった。
 片隅でパソコンに向かっている女子生徒がひとり。あとは中川美登利と正人のふたり。

「呼び出してごめんね」
 座る? と聞かれたが正人は首を横に振った。
 美登利も腰かけずに窓の桟に軽くもたれかかった姿勢のまま話を始めた。

「どうにかならないかな? 君の遅刻癖」
「どうにかできるなら、とっくにそうしてる」
「そうだよね。不可抗力だものね」
「……」
「だけどそれじゃあすまないこともわかるよね?」
「停学とか……」
「まさか。たかが遅刻でそこまではならない。でも、前例のないことだから、どうしようかなあと」
 反応に困る正人を見て、美登利は微笑む。

「だから私は考えた。池崎くん、あなた中央委員会に入りなさい」
「は!?
 目を剝いて正人は怒鳴った。
「なんでそうなるんだ!」
「だって、自分じゃどうにもできないんでしょう? それなら私の手下になってもらおうと思って」

 すっと体を起こし、仁王立ちになりながら美登利は今なお微笑む。
「私の下に入るのなら、なにがなんでもしっかりしてもらう。それが私の手足としての最低限だから。それこそ、窓から投げ捨てようとも」

 言ってることが滅茶苦茶だ。
 だけど、得体の知れない迫力に気圧されて、正人はもはやなにも言えない。

「それが嫌なら、一人でもできるところを見せてちょうだい」
 どうしたら、笑顔でこんな威圧感が出せるのだろうか。不思議なほどに、その微笑みはあくまで優しく優しく……。
「自発的に努力するのか、無理やりまわりに動かしてもらうのか。どっちを選ぶ?」

「自分で頑張ります」
「よろしい。それじゃあ、明日から頑張って」
 最後の気力を振り絞ってぺこりと頭を下げた正人に、ついでのように言葉がかかる。
「自発的にうちに入りたくなったらいつでも言って」
「それはない!」
 なけなしのプライド。
「失礼しました!」
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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