22-6.あの男と同じにはならない
文字数 1,044文字
「うん……」
「友だちは人生の宝っていうものね」
美登利はあごをお湯につけて瞬きした。
六つも年下の女の子に感動させられてしまった。本当に自分は仕様がない。簡単なことにいつも気がつけない。
「お風呂を出たら見てもらいたいものがあるの。今回来た一番の目的って言ってもいいかも」
頷きながら美登利は嫌な予感を感じ始めていた。
子どもの頃は彼女と手をつなげることが嬉しかった。あたりまえだ、大好きだから。
嬉しい顔も、哀しい顔も、怒った顔も、全部見ていた。
笑ったり泣いたりで毎日がすぎて、手をつないでいられることが嬉しかった。
彼女が手を放して巽のところへ行ってしまうのが寂しくて、それでも必ず振り返って自分を呼んでくれるから嬉しくて、一生懸命その手を握った。
だけどあるときから彼女は変わった。
嬉しい顔も哀しい顔も怒った顔も変わらない。だけど本心を見せなくなった。
完璧な隠蔽。ときおりこぼれる本音さえ何かを隠すフェイクではないかと思わせるほど。
なにが原因かは知っている。なにを隠したいのかもわかってる。けれど……
「おら、そこの10を早く出しやがれ」
「泣いて頼むなら出してもいいよ」
「パス」
今度は7ならべが始まったらしい。部屋に戻ったのか綾小路はいない。
「くそ、負けた。もう一回」
「はいはい」
肘枕で寝そべった誠の隣で美登利が呑気にカードを切っている。
いつもいつもなにを考えているかわからない顔をして、目の端でどこか別の世界を見ている。
ふわふわと飛んで行ってしまいそうになるのをこらえようと彼女自身必死なのかもしれない。
だから時々コントロールを外れた感情がまわりをかき乱す、振り回される。
そんなことにもきっと本人は気づいていない。憎たらしい。全部ぶちまけてしまいたい。
知っている。なにを隠しているのか、誰を想っているのか知っている、と。
けれどそれはしない、絶対に。
そんなことをすればあの男と同じ。
彼女を壊したあの男と同じにはならない。自分は違う。
「あれ? 起きてるよ、この人」
「7ならべやるか?」
「ちょっとさ、その前に休憩。コーヒー淹れてくる」
「淳史さん休憩多すぎ!」
がちゃがちゃとなにも変わらない空気感。
誰がなにを思っていても変わらないものもある。ひょっとしたら、彼女が守りたいものは……。
「寝ぼけてる? 寝るなら隣行きなよ」
ひらめきかかったものは、美登利の冷たい指先の感触にかき消された。