2-2.「盛り上がってきたね」

文字数 961文字

「……という感じに、明日のHR内での結成式をもって、正式に文化祭実行委員会が発足されます。以後この部屋が拠点となるので、自分の担当に関する装備品などの管理は徹底すること。役割分担や細かいワークスケジュールはプリントで確認してください。明日から放課後にはこの緑色の腕章を付けて動くように。それから、三年生には一年の各クラスへアドバイザーとして入ってもらいたいので、この後振り分けの相談をお願いします。……最後に、年間最大の行事である文化祭を盛り上げるために、全員の健闘に期待します。何か思いついたなら、どんどん実行行動しちゃってください。文句や苦情を言う人間がいたら、中川のところへ来い、と伝えてください。以上、質問は?」

 誰もがわくわくと顔を輝かせて無言のままだ。
「それじゃあ、解散。よろしくお願いします」
 わっと口々に言葉を交わしながら委員たちがばらけていった。
「盛り上がってきたね」
 高揚感でいっぱいになっている拓己の隣で、片瀬もこくこく頷いている。雰囲気にあてられそうになりながら、正人はひそかに舌を巻いていた。
 中川美登利、侮りがたし。




 校舎を出る頃には雨が降り始めていた。傘を持っていた拓己が入れてくれようとしたけれど、
「コンビニ寄ってくからいいよ。食いもん買ってきたいし」
「ぼく先に帰ってるよ」
「ああ」

 近くのコンビニでカップラーメンとビニール傘を買って、寮への道を急ぐ。河原沿いの道を歩いていると気になる光景に行きあたった。
 河原の芝生の一角にある東屋のベンチに、青陵の制服を着た女の子が座っていた。正人の脳裏にちらりとひらめくものがある。
(もしかして……)
 朝もここにいなかったか? あの子。
(まさかね)

 考え事をしながら歩いていたから足元がおろそかになっていた。左足のかかとに何かが当たって転びそうになる。
「え……」
 正人の前を歩いていた老婦人が抱えていた袋から、缶詰が次々に転がり出していた。

「大丈夫ですか?」
「ええ、ええ。ごめんなさいねえ」
 彼女が屈むと、また缶詰が転がり落ちる。
「それ、おれが持ちます」
 レジバッグを持ち、転がっている缶詰を手早く拾う。
「お家はどこですか? 持っていきます」
「ありがとう。優しいのねえ」
 婦人は目元に皺を寄せ上品に微笑んだ。
「家はね、そこの石段を上がったところなの」
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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