4-4.「期待を裏切らない」

文字数 966文字

 わっと騒ぎが起きたのはそのとき。
 グラウンドの向こうの裏道をランニングしていた生徒たちが逃げまどっている。何か罵りながらそれを追いかけまわしている三人組がいる。
 黒い学生ズボンに開襟シャツ。特徴がなくてどこの制服かはぱっと見わからないが。

「あいつら……」
 一階なのを幸い窓から飛び出そうとした美登利の目に、猛スピードで駆けつける池崎正人の姿が映った。
 勢いそのままに一人に拳固を食らわせ、横合いから殴りかかってきたもう一人に裏拳を打つ。
 品行方正をもってなるはずの青陵生の反撃に、三人は目を白黒させて逃げていく。正人はすかさずそれを追っていってしまう。

「…………」
 言葉もない綾小路と和美の横で、美登利は必死に笑いをこらえる。
「さすが池崎くん。期待を裏切らない」
 そうして窓枠を乗り越え彼女も駆け出した。



 正人の足の速さなら追いつくのは造作もなかった。
 一人目の襟首を掴み、投げ倒す。居直って向かってきた二人目と組み合っている最中に三人目が拳を振り上げるのが視界に入る。一発食らっても仕方ない。正人は覚悟する。

 だが、相手のパンチは割って入ってきた中川美登利の左手で受け止められた。
 美登利はそのまま素早いモーションで後ろ蹴りを繰り出す。かかとが綺麗にみぞおちに入って、相手は沿道の向こうの松林の中まで吹き飛ばされた。

「なかがわみどり……」
 正人と組み合っていた学生が顔をこわばらせた。
「あなたたち、北部の生徒だよね。昨日うちの生徒をカツアゲしたのはあなたたち?」
 低い声で美登利が訊く。
「櫻花のメンバー?」

 たたみかける問いに相手は答えない。ふうっと美登利は息をつき、腕組をして微笑んだ。
「まあ、いいわ。あなたたちの総長様にお迎えに来てもらいましょうねぇ」
 正人のときとは比べ物にならない威圧感に、見知らぬ男子高生たちは「うっ」と息をのんだ。



 松林内の遊歩道にある休憩所のような広場に面子がそろったのは間もなくのこと。
 一ノ瀬誠に綾小路、三人の暴行犯を連れてきた美登利と正人。騒動を目撃していた森村拓己もそこにいた。

 そして最後にやって来たのは、夏だというのに学ランを肩から引っかけた短髪の男子高生。後ろに同じ開襟シャツの男子生徒を三人従えている。
 ズボンのポケットに両の手の親指を引っかけラフな立ち方をしているのにスキがない。
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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