7-2.文科系に攻撃的な連中が集まって

文字数 917文字

「おまえら野球できるか?」
「野球? 野球というのは何人でやるものなんだ?」
 逆に尋ね返した綾小路に横から美登利が返事をする。
「十一人でしょう」
「それはサッカーだよ。野球は八人だろう」
 更に横からマジボケをかました誠に当麻は頭を抱えて唸った。
「っとに団体競技にうといやつらだな」

「なによ、野球がどうしたのさ」
「別に野球じゃなくてもいいんだけどさ。球技大会やらないか?」
「なんなんだ。藪から棒に」
 顔をしかめた綾小路に向かって当麻は苦々しい顔をしてみせた。
「勝ったおまえら白組に負けた紅組の気持ちがわかってたまるか」

 当麻が体育祭のことを言っているのだとわかって誠と美登利は顔を見合わせた。

 新入生を迎えまず初めに行われる一大イベントが春の体育祭である。青陵の体育祭は学年を交えクラスごとに縦割りにした紅白合戦で行われる。
 今年は人材が偏りすぎたこともあって白組の圧勝でもって幕が閉じた。いささか面白みに欠ける競技内容だったこともあり実行委員会の采配ミスとの声も高く、それが前生徒会退陣の原因のひとつにもなった。

「呆れた。まだ根に持ってたの」
「だってよ、白組の連中つけあがって腹が立つんだぜ。白組が優勝できたのは陸上部のすごい先輩たちのおかげだろ。あいつら一年がなにをしたっちゅうんだっ」
 まくしたて、でもまあ、と当麻は声のトーンを落とした。
「それはおれら紅組にも言えることだろうから、おれら一年だけで体育祭の仕切り直しみたいのができればと思ってさ」

「うーん」
 おとがいをかく誠に当麻は更に詰め寄った。
「特に運動部の連中! ルーキー扱いされて図に乗りやがって。あいつらの力がどれほどのもんか見てやりてえと思うだろ、鼻明かしてやりたいだろ」
「そんなの書道部のあんたには関係ないでしょうに」
「負け組扱いされて黙ってられっか」

 そういえば、と誠は思い出す。書道の達人である当麻が得意とする句が『勝負魂』であることを。
 後に体育部会が「文科系に攻撃的な連中が集まって」とため息を落とす要因がここにもあるのである。

「やりたいというのなら一年の希望者だけで試合をするくらいかまわないが。でも他に迷惑のかからない放課後にだぞ」
「さすが! 話がわかるな」
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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