4-3.「姿勢がきれい」

文字数 979文字

 学校にいるときとは違っていて、目立つのだ。普段校内で見かける彼女は学校の空気に溶け込みすぎていてそんなふうに思ったことはなかったけれど。
 今こうして違う場所で見る彼女はとてつもなく浮いて見えてしまう。

「姿勢がいいからだと思うよ」
 小声で話しかけられ、またまたびくりとする。綾香が正人のそばに来ていた。
「中川さんて姿勢がすごくきれい。立ってるだけで絵になるっていうの? 生徒会長や風紀委員長もそうだけど」
 綾香はぴたっと正人に視線をあてて言った。
「池崎くんもだよ」
「おれ?」
「姿勢がきれい」
 あまりにまっすぐ見つめられて返事に困る。
 綾香はふいっと視線を逸らして恵の方へ行ってしまった。




 翌日の放課後には園芸部の手伝いにかり出された。
「暑いのにごめんね。明日は雨が降るっていうし、今日中に収穫しとかないとダメになっちゃいそうだから」
「わかりますよ。実家で祖母が畑やってますから」
 気を使う園芸部部長に森村拓己が明るく応じる。

「お手伝いしてるんだ? 手付きが慣れてるもん。池崎くんもだね」
「おれんち半分農家みたいなもんなんで」
「へえ。寮生あるあるだな」
 片瀬が感心して言ったのに、
「田舎者って言いたいのかなー」
 拓己が突っ込む。作業している部員みんながくすくす笑う。

 なんというか、和やかな雰囲気だ。部長の小宮山唯子をはじめ園芸部メンバーは穏やかで優しくて、普段くせ者ぞろいの上級生の中にいるからなんともいえず癒されてしまう。

「うわあ、なんすか。あのまったりゆるゆる感」
 校舎内から園芸部の菜園を見晴るかしていた船岡和美が告げ口するのを、中川美登利は「あははは」と流す。
「いいさ、たまには」

「……体育部会も池崎少年に注目してるみたい」
「運動神経いいからね」
「鹿島先輩が引退したら、後釜は尾上かな」
「どうかなぁ、二代続けて同じタイプっていうのもねえ」

 ぼそぼそと話し合っていると廊下の向こうから綾小路がやって来た。
「こんなところにいたのか」
 わざわざ探しに来るとは何事か。

「昨日うちの一年が商店街でカツアゲ被害にあったそうだ」
 は? と美登利の眉が歪む。
「確かなの?」
「……相手は北部の生徒だったらしい」
「宮前はなにやってるの」
 美登利が本当に怒ったときに出す低い声色に、いくらか慣れているはずの和美もぞっとしてしまう。
「今、一ノ瀬が連絡してる。なんにしろ……」
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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