14-1.「ほんと気ぃ使うよな」
文字数 853文字
「予約したケーキ取ってきて。おつりはあげるから」
母親が財布から取り出した福沢諭吉に敢え無く撃沈された。どう考えてもこの半分のペイは美味しすぎる。
それでのこのこ駅前に出てきた片瀬はすぐに激しく後悔することになる。
級友たちとかち合ってしまったからだ。
多分自分は表にはなにも出していない。
だが、森村拓己の気まずそうな顔、須藤恵と小暮綾香の困った表情、そしてなにも考えていないであろう池崎正人の顔などを見ていたら、こっちが居たたまれなくなってしまって言葉が出てこない。
後ろからがしっと肩を抱かれたのはそのとき。
「まあったく、やんなるよな! どっちもこっちもカップルばっかり」
「宮前さん」
「おー。女子可愛いじゃん、おめかししちゃって。いいよなあ。おまえらさっさとどこへでも行きやがれ」
ぐいっとそのまま肩を押されて片瀬は無理やり連れていかれる。
「わかる、わかるぞ。仲間の中でくっつかれるとさあ、ほんと気ぃ使うよな」
「おれはべつに」
「わかってるから」
ばんばんと背中を叩いて宮前は改めて片瀬の顔を見る。
「えーと、誰だっけ?」
「片瀬っす。中央委員会やってます」
「中川の子分か。オレは……」
「櫻花の宮前さんですよね」
「ああ、うん。よろしく」
よく見ると宮前は櫻花のメンバーらしい茶髪の男子たちを連れていた。
「おまえら行っていいぞ。もうつまらん騒ぎ起こすなよ」
ぺこっと頭を下げて彼らは散っていった。
「ふて寝しようと決めてたのに呼び出されちまってよ、ついてないぜ」
「たいへんっすね」
「そう思うならちょっと付き合え。このまま帰るのはしゃくだ」
店はどこも混んでいたからふたりはイベント広場に行ってみた。屋台がたくさん出ているから食べるものには困らない。
「カップルと家族連ればっか」
ケバブサンドをかじりながら宮前がまたぼやく。
「もててるじゃないっすか。彼女さん作らんのですか」
実際先ほどから数少ない女性グループの何人かが宮前を物色しているのがわかる。