19-3.「文化部だって体力勝負ですからね」
文字数 1,044文字
「いい顔してますよ」
正人にはいつもクールな今日子が珍しく褒めてくれた。それに美登利がくすりと笑う。
「池崎くん、もう豚汁もらった?」
後ろから生徒会副会長の本多崇に声をかけられた。
「うお、早いじゃん」
「長距離はけっこう得意」
まわりは徐々にゴールした生徒たちでがやがやしてきた。
本多とふたりで炊き出しのテントに並ぶ。PTAに交じって学食厨房の女性職員たちが配膳してくれていた。
「本多くん、おつかれさま」
「ありがとうございます」
にこっとして本多が受け取ったお椀の豚汁は、正人のものよりずっとなみなみと注がれている。小さく疑問を感じた瞬間だった。
「んー。やっぱりバレンタインのチョコレートは格別だ」
念願のチョコを頬張って美登利はしあわせそうに微笑む。この時期のチョコレートが一年で一番おいしいというのが彼女の主張だ。
同級生や後輩たちから贈られたらしい大量のチョコの小箱を見て綾小路は呆れて片眉を上げる。
「食べすぎは体に毒でなないか」
「大丈夫。一日三箱って決めてる」
言いつつ美登利が今開けているのはなかなかに大きな箱だ。送り主は坂野今日子らしい。
当の今日子はパソコンに向かってマラソン大会の結果を集計している。
その画面を覗き込んで綾小路は顎を撫でた。
「陸上部はまあまあ健闘したが、ポイント的に文化部の吹奏楽部や演劇部と大差ないというのがな」
「文化部だって体力勝負ですからね」
「ねえねえ、思ったんだけどさ。例の新春武道大会ってなんで武道に限定されてるわけ?」
船岡和美の思わぬ質問に綾小路が眉を寄せる。
「それは伝統としか」
「大方、突き詰めれば武道系にしか自信のない西城のごり押しがあったからでしょうけど」
キューブ型チョコのレイヤードをうっとり眺めながら美登利が言う。
「新春マラソン大会とかじゃ庶民に有利ってこと?」
「そうだなあ」
「マラソンならさ、誰でも参加できるのにね」
「……」
綾小路が考え込んだとき、本多崇が小さな手提げとプリントを抱えてやって来た。
「こっちが学年別クラス別順位表です。部活別できてたら体育部会に持っていきますよ」
「はい、ありがとうございます」
振り返った今日子は本多が持っている手提げに目を止めた。
「それ」
「あ、これ。もらったのだけど、ぼくチョコって苦手で。良かったら食べませんか?」
にこにこと本多が差し出した手提げのロゴは誰もが知るあの高級チョコレートメーカーのものだ。和美も美登利も目を丸くする。