7-1.どうしようもなく、しょーもない争い

文字数 903文字

「おい、またあれやろうぜ! あれ」
「は?」
 中央委員会委員長の氷のような一瞥にも怯まず当麻秀行は言い募る。
「あれだよ! ドッジボールやろうぜ!」
 グっと親指を立て決めつける彼を止められる者はそういない。
「わかった、わかった」
 やれやれと頬杖をついて生徒会長の一ノ瀬誠が当麻に向かう。

 森村拓己がこっそり船岡和美に尋ねる。
「なんですか? また、って」
「去年ねぇ、どうしようもなく、しょーもない争いがあってだね」

「誰か綾小路を呼んできて」
「うちら行ってきまーす」
 来い来いと和美に手招きされ、風紀委員会室に向かう道すがら拓己は詳細を教えてもらうことができた。



 青陵学院は、中等部と高等部を擁する私立の進学校である。創立されてから十年足らずと歴史はまだ浅い。この地域の古くからの名門校である西城学園と『西の西城・東の青陵』と並び称される所以だ。
 並外れた進学率とそこそこの実績で地域の衆目を集めているが、その神髄は極めて高い生徒たちの自治力にある。
「克己復礼」を教育理念に掲げ、「清く正しく美しく」をモットーに自立心あふれる生徒たちが傍若無人に活躍する。大いなる可能性にあふれる…………要するに、異彩を放つ学校なのである。



 その大音量の叫び声は生徒もまばらになった放課後の校舎内に響き渡ったという。

「一ノ瀬えぇ!!
 自分の名を呼びながら扉を開け、ぜいぜいと肩で息を切らした級友の姿に、一ノ瀬誠は湯呑を抱えたままきょとんと顔を上げた。
「生徒会長のくせになんで生徒会室にいないんだよ」
 文句を言いながら当麻秀行は中央委員会室に足を踏み入れた。
「何か用?」
「用があるから探してたんだよ」

 がなった当麻は誠の脇にいた人物を見てちょうどよかったと頬の線を崩した。
「綾小路もいるのならちょうどいい」

「なんなの、いったい」
 眉をひそめて訊いたのは、先日この中央委員会委員長に就任した中川美登利である。

 二年に渡り青陵学院を牛耳ることになる一ノ瀬政権をスタートさせたばかりの新生徒会会長一ノ瀬誠。その立役者であり、二大勢力である風紀委員会と中央委員会を手中にしたばかりの綾小路高次と中川美登利らを前に、当麻は意気込んで尋ねた。
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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