26-1.やけに静か
文字数 955文字
文化祭準備期間の数週間は、いつものようなバカ騒ぎも起きず粛々と、ただ粛々と準備作業が進められてきた。
やけに静かだな、と思ったのは当然で、三年生の姿が見えなかったからである。
文化祭実行委員会室に行けばいつものように坂野今日子がパソコンに向かっていて、細々した質問に答えて指示をくれた。
だが中川美登利も船岡和美もいない。校内でもどこにも見かけない。
そういえば、一ノ瀬誠や綾小路高次にもしばらく会っていない。
騒がしく話題作りには事欠かない安西史弘にも。
三大巨頭や体育部長ら、この学校の首脳陣がことごとく消えている。
唯一、文化部長澤村祐也だけは自身が手掛ける音楽部の練習の傍ら校内を巡回したりしていたが、やっぱり主要メンバーが他に見当たらないのはオカシイ。
さすがの池崎正人も気がついた。
正人が察したのだから森村拓己や片瀬修一にだってわかっているだろう。
だがふたりともそのことには触れずに黙々と作業をこなしている。正人も逆に面倒になって作業に集中することにした。
彼らのことを気にしたって始まらない。どうせろくでもないことをしでかそうとしているに違いないのだ。触れずにいるのが利口というものだ。
メインの立て看板が完成したのでクラブハウス脇の倉庫に一年生たちと一緒に運ぶ。
どこかに買い出しに行っていたらしい小暮綾香と須藤恵が校門から入ってきた。
「わあ、すごい。看板できたね。今年はお花の絵、きれい」
恵が明るく言うのに気を取られて一年生の一人が手を滑らせた。
がくんと看板が下がって正人はとっさに踏ん張る。不安定な体制になった彼の体を綾香が後ろからしがみついて支えようとしてくれた。あまり意味はなかったけれど。
「ありがと」
「うん」
綾香がパッと離れて頬を赤くする。
「ちっきしょおぉぉ。青春しやがって、キュンキュンするじゃないか」
一部始終を屋上のペントハウスの上から双眼鏡でガン見していた船岡和美がもだえる。
「和美さん、見るとこが違う」
背中合わせに学校の反対側に視線を配りながら中川美登利が冷たくたしなめる。
「だってさあ、もう飽き……いやいや、疲れちゃったんだもん」
伸びをしながら和美はこぼす。
「ほんとにうちが狙われるわけ?」