12-1.「一肌脱ごうじゃないか」

文字数 983文字

 週明けの月曜日、そのニュースはまだ寝ぼけまなこの生徒たちの間を、爆竹のように目覚ましの効果を伴ってかけめぐった。

「池崎? 中央委員会のやつだろ」
「調理部一年のかわいい子」
「ちっきしょ。街がクリスマスに浮かれ出したからってよう」

 空気を読みすぎるほど読んでしまう船岡和美は顔をしかめて中央委員会委員長の中川美登利に注進した。
「このままじゃ、あの子たち新聞部の餌食だよ」

 中央委員会の秘蔵っ子と学年一の美少女、ビッグカップルといえるふたりの交際発覚である。
 新聞部どころか広報委員会までボスである美登利のところに駆けつけて来そうなネタだ。

「森村くんと須藤さんみたいに上手くやってくれてれば良かったんですが」
「いや、むしろ森村カップルが計算力高すぎなんであって」
 坂野今日子に和美が突っ込む。

「うーん」
 頬杖をついて美登利は考える。
「ここんとこ情報収集の暇なかったからネタがなあ。選挙のために温存も必要だし。何かない?」
 風紀委員長の綾小路高次に振ってはみたが、こちらも眉を上げて見せただけだ。
「こうなったら、紗綾ちゃんとあんたのラブラブ写真を公開するとか」
「殺すぞ」
「やーだ。冗談が通じない」

 ほんとにどうしよう、と珍しく美登利が頭を悩ませていると、
「呼ばれてないけどじゃじゃじゃじゃーん! なのだよ!」
 朝からハイテンションで現れたのは、もちろん安西史弘である。

「我が盟友池崎くんがピンチのようではないか」
 だれが盟友? 皆が思ったが面倒なので誰も突っ込まない。
「ここはボクが一肌脱ごうじゃないか」

「具体的に何か策があるんだろうな?」
 疑わし気な表情の綾小路に安西は能天気に笑って答えた。
「文字通りボクが脱ぐんだよ!」



『万能の人・安西史弘の挑戦! 海岸にて寒中水泳大会急遽開催。求む参加者』

(なんかまたアホなことが始まった)
 いつものように時間ギリギリで飛び込んだ校門前広場では、号外のビラが乱れ飛び、花壇の縁に仁王立ちした安西がヒーローインタビューのように新聞部と広報委員会の取材に囲まれていた。
「まさかおれたちもやらされたりしないよな」
 ひとりごちながら校内に入ると昇降口前の廊下で船岡和美と坂野今日子に会った。

「良かったねぇ、池崎くん。盟友が助けてくれて」
 盟友? 誰が?
「悪事千里を走るですよ。気をつけてください」
 今日子に睨まれたが身に覚えがまったくない。
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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