21-2.「結構なものを下さったよなああ?」

文字数 1,006文字

「男の子は大変だねえ」
 船岡和美が言う。
「女の子だって大変だよ」
 美登利が横からとりなした。
「ああ、そうそう」
 和美はまたぷぷっと笑う。

「ねえねえ、遊園地行くの? 女子のリクエスト?」
「はい」
「Hランド行くならさ、観覧車は押さえときなよ。透明なやつ、整理券が必要だからね」
「あのハートのやつですか」
「女子は乗りたいでしょう」

 ね、と振られたものの、美登利はなぜか横を向いて俯いている。
「いや、あれ……。私は死ぬほど恥ずかしかった気が……」
「ええぇぇ、なんで。楽しいじゃん。足元怖くて最高じゃん」
「ああ、うん。そうだね。スリル満点……」

 どうやら和美と美登利とでは論点に食い違いがあるしい。気がついて拓己は苦笑する。

「あれ? でも、そしたら、池崎くんのお家近くない?」
「いや、おれん家はもっと長野寄りだから」
「ふうん」
「まさか春休みも帰らないつもり?」
 美登利が言うのに正人は顔をしかめた。
「当然」

「また拓己くんのとこに……」
「いいんですよ、美登利さん。むしろ春休みには来てもらったほうが」
 拓己がにやりと口の端を上げたのを見て美登利はああ、と納得する。
「確かに」
 ちょうど信号が青に変わって歩き出していた正人はその不穏な会話に気づけなかった。

「どこかおすすめの店ないですか?」
「このへんに新しいお店できたよね? 小さくてわかりにくいけど、ほらそこの、広場の角のとこ」
「シフォンケーキのお店ね! すごいよ、ふわっふわ。それにしなよ。あのふわふわは自分じゃ作れないよ」
「さすがチェックが早い」
「見た目重視の私には物足りないけどね」

 スイーツ話でテンションが上がった矢先、イベント広場の方から声がかかった。
「みーどーりーちゃん」
 わざとらしく呼んでいるのは宮前仁だ。
「飛んで火にいる夏の虫だな、こりゃ」
 しまった、と美登利は逃げ出そうとしたが遅かった。

「バレンタインには結構なものを下さったよなああ?」
 珍しく強気に宮前は幼馴染の肩を抱く。
「お返しだ。ありがたく食べろや、こら」
 わざわざ買ってきたのか、袋は某観光名所の手焼きせんべいの店のものだ。

 袋の口を開けて宮前はぐいぐい美登利に押しつけた。
「いや、辛いものはちょっと」
 目にも痛い真っ赤な激辛せんべいだ。

「オレはあれ、やけくそで全部食ったんだぜ。おまえも全部食いやがれ」
「は? あんた馬鹿じゃないの?」
「馬鹿でいいからおまえも食え」
「辛いものは嫌いだって……」
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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