13-3.睨むなよ

文字数 901文字

 これが中川美登利を激怒させ、彼は容赦のない個人攻撃を受けることとなる。
 直接的な精神攻撃。あの氷の美貌で蔑みの眼差しを投げられ、侮蔑と嘲りを囁かれ貶められた彼は、再起不能に追い込まれ戦線離脱。
 投票日前日の討論会に姿を現すこともできなかった。

 最大対立候補への徹底した攻撃を目の当たりにした他の候補者たちも戦意を喪失し、敵はもう誰もいなかった。
 完全勝利。誰の顔にも笑顔はなかった。
 ただはっきりしたのは三大巨頭による支配の拡大、それが決定づけられたということ。

「あと一年……」
 そろそろと顔を覆っていた手を下ろして美登利はつぶやく。
「あと一年しかない」
「大丈夫だよ。必ず、君が望んだようになる」
「……」
 氷が溶けるように涙があふれてくる。膝の上で両の手を拳に握って彼女は空を見上げる。
 すべてを手に入れて、すべてを失うための、あと一年。


   *   *   *


「冬はやっぱりこたつでみかんだね」
「うん」
「おまえらヒトんちでくつろぎすぎ」
「だってうちこたつないし」
「うちも」
「こたつはやっぱり宮前家だよね」

 ぬくぬくと背中を丸める美登利と誠に宮前母が優しく呼びかける。
「ごはん食べてってね。幸絵さんが持たせてくれたお菓子いただきましょうか。みかんもっと持ってくるね」
「おばさん、ありがとう」
「おかまいなく」
 つくづくこの幼馴染ふたりに母は甘い。息子にはものすごい口を利く癖に。それは不良の親分などやっていれば仕方がないが。

 テレビをつけると夕方の情報番組はクリスマスのイベントやレストランの特集ばかりやっていた。
「けっ。っとにこの時期は気分が萎えるわ」
「あんたにもそういう感覚あるわけ」
「そら、可愛い子と遊びに行きたいさ、たまには」
「よりどりみどりでしょうに、総長さん」
「オレの目にかなう子がいないのよ」
「贅沢だねぇ、何様?」
「おまえが言うな」

 誰のせいだと思ってる。口から出そうになった言葉を慌てて飲み込む。
 向かいから誠がこっちを見ている。
(睨むなよ)
 本当にこの幼馴染はめんどくさい。

「おまえら休みいつからだよ」
「二十二日が終業式」
「ああ。じゃあその午後、澤村のクリスマスコンサートか」
「だね」
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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