11-4.エスパーか
文字数 1,082文字
「!!」
エスパーか、と正人は目を剝く。
「わかっちゃうのよ。おばあちゃんには」
ほほほほ、と城山夫人は高笑う。
「それで? なんてお返事したの?」
「へんじは、まだ……」
「うーん、お悩みの様子ねぇ。お断りしたいの」
「や、だから、そんな……」
夕刻で肌寒さを感じる頃合いだというのに正人は妙な汗を流す。
「もう、なにも、わからないっていうか、いきなりすぎて」
「大抵の場合、告白っていうのは突然なものよ」
「……」
極端に首を俯けている正人に「ふう」と息をついて城山夫人は優しく語った。
「それじゃあ、いちばんしてはいけないことだけ教えておいてあげるわ」
正人はかろうじて顔を上げる。
「わからないって理由で相手から逃げ出してしまうこと。男性として最低だし、なにより誠意がないわ」
「誠意……」
「わからないならわからないって、相手にちゃんと伝えるの。それならもういいですって言われたらそれまでだし、それなら一緒に考えましょうって言われたなら、あなたはそれにひとつひとつ答えていけばいいわ。誠意を持って、正直に」
「正直に」
「あなたたちくらいの年の頃にはいちばん大切なことよ。つまらない見栄やはったりで本当のことを見逃してしまってはダメ。自分にも相手にも正直に。これが後悔しないためのコツね」
「……」
「実践するかしないかはあなたの自由だけど、おばあちゃんの知恵袋だと思って留めておいてね」
「はい」
城山夫人の暖かい手が正人の背中を叩く。
正人の背に手を置いたまま、城山夫人はふと土手の上の道を振り仰いだ。つられて正人も振り向く。
中川美登利がなぜか驚いた顔をしてこっちを見ていた。声もなく口を動かしている。
「……?」
疑問に思う正人を一瞥し、美登利はなにも言わずに行ってしまった。どこへ行くのか、帰り道とは方向が違うはずだが。
「さあ、体を冷やしてはいけないわ。もう帰りましょう」
「ありがとうございます」
小さく礼を言うと、城山夫人はいつものように優しく優しく微笑んだ。
地元の駅近くのカラオケボックスで、綾香は歌いもせずにテーブルに突っ伏している。
やはり歌わずにソフトクリームばかりつついていた須藤恵はそれにも飽きてスプーンを置いた。
「ねえねえ綾香ちゃん」
「消えたい。もう消えちゃいたい」
告白したぐらいで消えてしまっていたら地球上から女子という女子が居なくなってしまう。
「綾香ちゃーん」
「まだ、言うつもりなんかなかったのに」
そりゃまあ、花なんてもらってしまえば、気持ちも盛り上がってしまうわけで。
(罪作りなヒト)
恵はやれやれと息をつく。