17-4.練習通り
文字数 960文字
「私あいつ大嫌い」
きれいな眉をひそめて美登利は一言で切り捨てた。
「なんていうか女性蔑視的?」
「女性の敵です」
船岡和美と坂野今日子も次々に言う。女性陣に不人気なようだ。
「それよりどうよ? 手ごたえは」
「池崎くんと会長とで二勝できれば、なんとか面目が立ちますからね」
「頑張ります……」
「とはいえ、一ノ瀬くんだって当てにはならんか」
「勝負事になるとあいつは予想がつかないからね」
和美が言うのに美登利も苦笑いする。
「また伝説が増えたりして。賭けようか? 高田にムカついてやりすぎ反則負けに五百円!」
「それなら私は五千円賭けます」
「賭けにならないって、それ」
そんなこんなで大会当日、正人たちは私立西城学園にやって来た。
「池崎、入るの初めてか?」
「もちろん」
「馬鹿広いからな、ちゃんとついて来いよ」
引率者のノリで同行している宮前に出場メンバーはついていく。一番うしろで一ノ瀬誠がため息をついた。
兄が通っていた学校だと思うと少し感傷的になった正人だったが柔道場に着いてその物思いを振り払った。
「辞退するものと思ってたのによく来たね」
文化祭で顔を見たことのある高田孝介が誠に手を差し出す。誠は選挙戦のときのような張り付けた笑顔でそれに応じた。
「急なことで申し訳なかったが参加してくれることに感謝する」
もう一人進み出てきたのが官房長篠田幸隆のようだった。
堂々とした立ち姿で、高田とも誠とも違うタイプのリーダーのようだ。
試合はトーナメント方式の団体戦。昨年優勝の江南をシード枠としてまずは西城と青陵が戦う。
「何度も言ったがな、勝てとは言わん。おまえにできるベストは引き分けることだ。粘って引き分け、それを狙え」
とくとくと宮前に諭されて送り出された先鋒の選手は、作戦通りに点を取られず引き分けに持ち込んでくれた。
「よしっ。次、思い切り行ってこい!」
次鋒戦、正人の出番だ。
相手は自分より余裕で大柄、予想はしていたことだ。
ふうーとひとつ息をつく。教えられた通り、練習通り。
宮前にレクチャーされた通り、自分から仕掛け相手を動かす。また自分から仕掛け、相手を動かす。
それを何度か繰り返したとき、相手が崩れた瞬間がはっきりとわかった。