22-5.どちらが年上だかわからない

文字数 1,016文字




 夕食後、淳史の部屋で男だけのトランプ大会が始まった。
「もう、やだ。君らみたいな性格悪い子たちとは遊べない」
 ペナルティーの点数がどんどん溜まっていくのに辟易して淳史はひっくり返った。
「四人いないとつまんないよ。ねえねえ、淳史さん」
「わかったわかった。お茶淹れるからちょっと休憩」

 あぐらをかいたまま上半身を後ろにのけぞらせた宮前は「ん?」と本棚から飛び出ているクリアファイルに目を止めた。
 引っ張り出してみる。
「え、これ中川兄妹?」
 チラシの写真に宮前は驚く。

「そうそう、お正月に拓己くんが見たいって騒いでさ、引っ張り出したんだ。仁くん見たことない?」
「ないっすよ。これ、三歳くらいか?」
「そうだな」
「うひゃあ、親とかよく言ってたけど可愛いなあ。なんでこのままでいなかったんだ」
「紗綾の方が可愛いがな」

 綾小路の一言に固まってしまった宮前の横からまじまじとチラシを眺めて、誠は思い出してみる。
 この頃には既に悪魔の片鱗が見え始めていたように思う。高田の「ケッコン」発言が四歳か五歳の頃のことだから。

「オレ記憶にないな。木の棒持って走り回って気に入らないヤツ蹴り飛ばしてる姿しか思い出せん」
「ここの子ら穴に落としたことあったしね」
「昼間の奴が言ってたのマジっすか。まあやるわな、それくらい」
「そう考えると大人しくなったのか? 今は」
「うんにゃ、より悪辣になった」

 綾小路が言うのに宮前はにべもなく吐き捨てる。否定のしようもないから誠は黙って横になった。
「少し寝る」
「おいこら、トランプはっ」




 湯船に入ると膝小僧がしみて、青あざの上に細かい擦り傷までついているのがわかって美登利はため息をついた。
「美登利はいつも傷だらけね」
 紗綾が呆れて言う。
「せっかくきれいなのにもったいない」

 お湯の中で伸ばした手足は確かに切り傷や擦り傷の跡だらけで。ひどいケガだったわけでもないのに意外と痕は残ってしまうのだと逆に感心してしまう。
「処置が悪かったせいでしょう。ダメだよ、女の子なんだから」
「はい」
 どちらが年上だかわからない。

「紗綾ちゃんはさ」
 肩まで湯船に沈みながら美登利は訊いてみる。
「男の子に生まれたかったなあって考えることない?」
「ないわね」
 きっぱり紗綾は答える。

「考えたこともないわ。だって、そしたら高次と結婚できなくなっちゃう」
「そっか」
「でもそうね、美登利が男の子だったら高次じゃなくて美登利と結婚してたかも」
「それは恐悦至極」
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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