1-2.三大巨頭

文字数 901文字

「来たよ、池崎正人くん」
「いたのか」
 クリップボードを持った銀縁メガネの男子生徒が正人に徽章リボンを差し出した。
「付けて。早く」
 正人がもたついていると、ここまで連れてきてくれた髪の長い女子生徒が制服の左胸にその徽章を付けてくれた。

「君は一年一組だよ。席は一番左端の列で来賓席の真ん前」
 きゅっと徽章の向きを整えてから、彼女はにんまり微笑んで正人の背を押し出した。
「目立っちゃうね。ご愁傷様」

 観音開きの扉を少し開けながら、銀縁メガネの男子生徒が厳しい面持ちで「早く行け」と正人に向って目配せした。



 青陵学院は、中等部と高等部を擁する私立の進学校である。
 創立されてから十年足らずと歴史はまだ浅い。この地域の古くからの名門校である西城学園と『西の西城・東の青陵』と並び称される所以だ。
 並外れた進学率とそこそこの実績で地域の衆目を集めているが、その神髄は極めて高い生徒たちの自治力にある。
「克己復礼」を教育理念に掲げ、「清く正しく美しく」をモットーに自立心あふれる生徒たちが傍若無人に活躍する。
 大いなる可能性にあふれる…………要するに、異彩を放つ学校なのである。



『ただいまより、生徒会入会式を執り行います。一年生は速やかに体育館にお集まりください。繰り返します。ただいまより……』

 アナウンスを聞くともなしに聞きながら、池崎正人は人の流れに沿って体育館へと移動していた。その間にも何度も何度もあくびをかみ殺す。

 入学式の翌日。昨日の今日だから、今朝は死ぬ気で早起きした。おかげで昼下がりの今は眠くて眠くて仕方ない。

(帰りたい)
 生徒会入会式とやらの後には部活紹介が続くらしい。
 体育館に入ったところで我慢できずに特大のあくびがひとつ。涙まで出てきてしまう。

「おい、三大巨頭だ」
 正人の前を歩いていた男子生徒たちが囁き合っていた。
「すっげー迫力」
 彼らの目線の先、舞台の端に昨日の髪の長い女子生徒と銀縁メガネの男子生徒がいた。それと知らない男子生徒がもう一人。

 三大巨頭って? 訊いてみようかと思ったが。
「池崎」
 後ろから肩を叩かれ、できなかった。振り返ると、見覚えがあるが名前がわからない顔がふたつ。
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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