23-3.あまりにも無造作に
文字数 1,008文字
「うん、ほら。楽器のできる子たちが入学してきたからさ、音楽部、形になりそうだよ。文化祭まで頑張らないと」
「最後だもんね」
「……うん」
少し寂しそうな微笑み方が中川美登利のそれと同じで。何かふたりだけに共通するものを感じ取って和美は胸が痛くなる。
幼馴染の歴史の中で、一ノ瀬誠とも宮前仁とも違うものを彼は彼で持っているのだ。
(ずるいよ)
どうしたって和美は思ってしまう。
自分だって、もっと早く出会っていたかった。
「何年かに一度はああいうバカが出てくるんだ」
屋上でおにぎりを食べながら拓己はぷりぷりと話す。
「慣れっこだから大丈夫だろうけどさ。腹立つよ、やっぱり」
「怒りながら食べると消化に悪いよ」
須藤恵に言われて拓己はふっと肩の力を抜く。
「そうだね、ごめんね」
ふるふると恵は首を横に振る。
拓己は別のベンチで昼食を食べている正人と小暮綾香の方を見た。
おにぎりを頬張る正人の顔を見て綾香が笑っている。
「うまくいってるよね」
恵が拓己に訊く。
「うん……」
頷きながら拓己は別のことを考える。
平山和明は、おそらく美登利本人に切り捨てられて終わりだろう。
好きだ好きだとわめいたところであの冷たい笑顔で「私は違う」と言われればそれまでだ。
それでも食い下がって彼女が眉をひそめようものなら、坂野今日子が容赦なく叩き潰す。誠が出てくることはまず考えられない。
だけど宮前は、
――やめさせろよ、絶対に。
あんなに正人を心配していた。
(どうして)
思い返せば最初からそうなのだ。最初から美登利は正人を気にかけていた。
それで誰もかれもが正人に注視して一目置いて。今では、宮前が案じるくらい脅威を与えている?
(まさかね)
拓己は自分の考えに自分で嗤ってみる。
「いいお天気だねえ」
恵がお茶を飲んで花壇を眺める。
「ちょうちょだ。かわいい」
「モンキチョウだね」
パンジーに留まっていたのを両手で掬い上げる。
恵の横で手を広げるとふわふわとまた花壇の方へと飛んで行った。
「あれ、アゲハチョウまで飛んで来た」
ひらひらと拓己たちの前を通りすぎてチューリップの花壇の方へ行く。
恵がおもしろがって綾香に教えに行く。
紫色のチューリップに留まった大きな翅を正人がひょいと掴んで捕まえた。
本当に、あまりにも無造作に。
女子ふたりに何か言われて正人はすぐに蝶を放した。ひらひらと花壇に戻っていく。