9-1.無駄に顔がいい

文字数 976文字

「オープンキャンパス?」
「うん。ほとんどの大学でやってるから早めにいろいろ見ておいた方がいいって聞いて」
「ああ、それはそうかも」
「実際行ってみると気分も盛り上がるし。どうしてもそこに行きたいってなったら時間かけて頑張れるし、目標がはっきりするって」
「なるほどねえ」
「近場で日程調べてみるからみんなで行ってみない?」
「あたしはいいけど。美登利さんは?」

「うん。いいよ、いつでも言って」
 作業のためジャージに着替え長い髪を手早く編みながら中川美登利は返事をする。
「坂野っちもだよね」
「お供します」
「それじゃ計画立てておくね」
 部活だけでも忙しいだろうに小宮山唯子はにこにこと言う。青陵生全般にいえることだが、やはり優秀だということだ。

 屋上に向かうと一年生はもう作業を始めていた。なんて優秀。自画自賛の気持ちで美登利は機嫌よく自分も土壌の袋に手をかける。さりげなく作業に雑じっている佐伯裕二の姿を見つけ、すとんと気分が落ちてしまった。

「先輩。またですか」
「予備校の授業まで時間あるんだよ」
「図書館とか行ったらどうですか」
「人が多いとこ嫌い」
「とりあえず、そこどいてください。土ぶちまけるんで汚れますよ。みんな気を使いますから」
 そう? と佐伯に見つめられた園芸部女子は頬を真っ赤にして頷いている。無駄に顔がいいのも考えものだ。

「遅くなりました」
 どやどやと助っ人の男子たちが到着したので美登利は手で追い払うようなしぐさを見せる。佐伯は肩を竦めて階段を下りていった。
 入れ違いに文化部長澤村祐也がやって来る。
「ねえねえ、まだ手伝ったら駄目?」
「来週、苗の植え付けを始めるから。そしたらお願いするから」
 暗に「呼ぶまで来るな」と小宮山唯子に諭されて澤村祐也もしょんぼり帰っていく。
「よし、じゃあ今日で土の準備は終わるよう頑張ろう」
 園芸部部長小宮山唯子の号令に皆はおーっと気合を入れた。




「今日は頑張ったなー」
「んー」
 レーキやトンボで土を均す作業は思ったより重労働で、正人はうーんと体を伸ばす。

 作業で出たゴミを運びながら芸術館の前を通るとピアノの音が聞こえてきた。
「澤村先輩かな」
「聞いたことある曲」
「あるある」
 笑っている拓己の横で正人は思わず口走ってしまう。
「澤村先輩って委員長のこと……」
 すぐに言葉を飲み込んだのだが拓己たちには聞こえてしまっていた。
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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