24-3.「どんなときでも変わらないっすね」

文字数 914文字

 一方の白組。
「基本は専守防衛に徹して。向こうの的は放っておいても近づいてくるんだからこっちから動く必要はない。半数は大将を囲んで身を盾にして守ること。残りの半数は攻め手に対応。どうせあっちは個々に動くだけで作戦なんて考えてない。紅組一人にたいしてこっちは二三人で挟み撃ちして確実に仕留めていく。決して一人で突出しないこと。オーケー?」
 中央委員長が念を押すのに白組選手たちはこくこく頷き合い、それぞれアップを始めた。テニス部の白石渉だけがもの言いたげに残っている。
「なにさ?」
「いや、おまえにしちゃ消極的な作戦だと思ってさ」
「……」
「勝てりゃいいけど」

『さて、次の競技はいよいよ最初の大一番、風船割り合戦です。安西体育部長の発案で実現しましたこの企画、実に楽しそうですね。ルールの説明を行います。四十人対四十人で行われるこのゲーム、選手たちが頭上に取りつけた紙風船を新聞紙を芯にして作られた棒で割りあうゲームです。紅白の色分けでわかりやすくなってますね。勝敗は各チーム総大将を討ち取ることで決します。チームワークがカギとなるこの試合、ルールも厳格に参ります。風船が割れた選手は速やかに退場してください。また風船以外の個所を狙う行為も反則です、攻撃に使用するのは紅白の棒のみです、反則と判定された場合も速やかに……』

 グラウンドの端と端に布陣した両チームメンバーは誰もが緊張の面持ちだ。なにしろこのゲームの勝敗で五百点が動くのだ、責任重大だ。特に固い表情の池崎正人の肩を安西ががしっと抱いた。
「ねえねえ、みんな。やだなあ、そんな怖い顔して。せっかく楽しいと思って考えたのにさ。いいからみんなで楽しもうよ。ね!」
 呑気な様子に正人の肩の力が抜ける。
「体育部長ってどんなときでも変わらないっすね」
「変わるってどういうこと? ボクがボクじゃなくなるってこと? ありえないでしょ」
 この人、大物だ。正人は苦笑いする。

『それでは観客の皆様もご一緒に、鬨の声をあげますよ。せえの!』

 えいえい、おー! の合図が終わるや否や大方の予想通り紅組の攻撃が始まった。ざっくばらんに白組陣地に向かって来る。大将の安西は一応は様子見で後方から動かない。
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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