7-3.誰でもやったことのある球技
文字数 1,058文字
喜色を浮かべる当麻とは反対に美登利は頬に手をあて首を傾げた。
「バレーとかバスケとか、やっぱり部員が多い方が有利にならない?」
「そーだよなあ。そうすっと、部活になくて、誰にでもできて」
「用具とか必要なくてお手軽にできるゲームじゃないと」
中央委員長の出す条件を指を折って吟味していた当麻は、やがて笑ってつぶやいた。
「あれっきゃないよな、やっぱし。部活になくて、ルールが簡単で、かつ誰でもやったことのある球技! ドッジボールしかないだろ、これは!」
「ドッジ……」
「ボール……」
感情の欠落した声でつぶやきあった誠と美登利をよそに、当麻は張り切りまくってガッツポーズを取った。
「よーし、やるぞ。待ってろよ、白組。つうわけで綾小路、まず白組メンバーはおまえだろ。一ノ瀬っ、おまえも紅組サイドで出るんだぞ」
「俺も?」
「ったりめーだろ。あとはおれに尾上に白石に……。楽しみだな、今度こそ白組を叩きのめしてやる」
すっかりエンジン全開の当麻に誠と美登利は顔を見合わせるしかない。話が進んでいくのを黙って聞いていた綾小路がおもむろに口を開いた。
「それで、ドッジボールというのは何人でやるものなんだ?」
翌日の放課後、当麻によって半強制的に集められたメンバーたちが思い思いの格好で集まった。
「ったりいな。部活もあんだからさっさと終わらせようぜ」
白組メンバーのテニス部員白石渉が言えば、
「先輩たちにも負け犬の紅組を返り討ちにしてこいって言われてるからな」
陸上部の川野宏一も鼻で笑った。ジャージ姿の彼らに対して半袖短パンにハチマキといういでたちの当麻はコートの真ん中で仁王立ちになってせせら笑った。
「せいぜい驕り高ぶっていればいいさ。だが! おごれるものはひさしからーずっ! 風の前の塵に同じなのだよ!!」
「おお! 当麻ちゃん、君は本当にいいことを言うね」
嬉々として当麻に同調したのは、卓越した運動能力でもって「万能のひと」とあだ名される安西史弘である。
一方で、制服のまま集まった面々は袖を折ったりベストを脱いだりしながらぼそぼそと話し合っていた。
「要するに、ボールを敵陣地の人間に当てればいいわけだな」
「頭と顔はナシだぞ」
綾小路が確認するのを聞いていた科学部の剛腕杉原直紀は、体にそぐわないかわいい目をますます丸くして言った。
「綾小路くんて本当にドッジボールやったことないんだ」
コートの傍らで船岡和美が美登利に訊いた。
「あんなんで試合になるのかな」
「さあねえ」