7-4.「顔面セーフ!」

文字数 915文字

 そんなこんなで試合の様子を見ようと一年生たちが集まり始め、上級生たちも遠巻きに観戦の姿勢を見せ始めた。

「試合は五対五のデスマッチ。内野の生き残りがひとりもいなくなったところでゲームオーバーだ。外野の戻りは元外野の一回のみ」

 審判を買って出た男子の合図で試合が開始され、まずは紅組内野の安西がボールを取った。
 開始早々に安西にボールが渡ってしまったことに白組内野の面々は戦々恐々として身構えた。

 が。いくよーと能天気な掛け声とともに繰り出された安西の速球は、奇妙なカーブを描きながら白組陣地を突っ切り、味方の紅組外野である尾上貞敏の顔面にぶち当たったのである。

「出た、ウルトラノーコン」
 ギャラリーの間から唸りともため息ともつかないつぶやきがあがる。

 尾上の顔面から落ちたボールをフォローした杉原が恐る恐る見上げると、尾上はぶるぶる肩を震わせていた。
「尾上くん落ち着いて。わざとじゃないんだし」

「ごめん、ごめん。狙ったわけじゃなかったんだけどねえ」
 あははははと大笑いする安西の声に交じって、ぷちっと何かが切れる音がしたのを杉原は聞いた。

「貴様という奴は、それが人に謝る態度かっ」
 杉原の手からボールを奪い、安西めがけて投げる。
 直球ながらも唸りをあげる剛速球である。あんなものを受け止められるかと白組メンバーは逃げまどう。

 それを真っ向から受け止めて安西はにやりと口元を引き上げた。
「さすが尾上、いい球だ」
 再び安西が繰り出した球はありえない角度で曲がりくねり白組内野の白石の顔面を直撃した。

「顔面セーフ!」
 審判の声を誰も聞いてはいなかった。整った顔立ちに安西の洗礼を受けた白石の怒りのオーラがほとばしり出ていた。
「テメエッ! テニスコートの貴公子と呼ばれるオレ様の顔によくも!」

 その後も敵味方を問わず安西の顔面直撃を受けるメンバーが後を絶たず、安西対その他大勢という試合もへったくれもない図式ができあがってしまった。

「ヘンな試合」
 美登利を挟み和美の反対側で試合を見ていた坂野今日子がぼそっともらした。

 それでもどうにかこうにか試合は進み、それぞれの内野は各一人というところまで漕ぎつけられた。
「やーっと決着つきそうだね」
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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