9-5.宝探しゲーム
文字数 941文字
放課後である。
「ルールは簡単」
ピロティーに集まった人々を見渡して、安西史弘は手に持った小箱を掲げて見せた。
「池崎くんが握っているネタというのを紙に書いてもらってこの中に入れてある。この箱を今から校内のある場所に隠す。それを早く見つけた方が勝ち。簡単だろう」
「宝探しゲームってわけだ」
野次馬の中から声が上がり、安西はにこっと笑った。
「そう、ゲームだよ。校内のあちこちに隠してあるヒントを辿ってこれを見つける。助っ人の介入は何人でもオーケー。出し抜くなり蹴落とすなり大いに楽しんでやってくれ。ときに……」
やや声の調子を落として安西は続けた。
「中川委員長と相討とうという者はここで名乗りを上げてくれ。参戦を認めよう」
このときばかりはまわりの観衆もしんとなった。
「いないみたいだね。それではこの玉手箱は、中川委員長か池崎くんのどちらかの手に必ず帰結するものとする。ここにいるみんなが証人だ。いいね!」
体育部長の宣言に口を差し挟む者はいなかった。
「それでは、それぞれに別の最初のヒントを渡すよ。制限時間はあえてもうけない。勝負がつくまで存分にやってくれ。以上!」
美登利と正人の手にメモが渡される。安西が軽く手を挙げ合図した。
「開始!」
だっと正人が校内に向かって駆け出す。それにつられて野次馬たちもバラけていった。
美登利はといえば、その場に留まったまま安西に鋭い目を向けた。メモを開いたときから表情が変わっていた。
「なんの魂胆なの。これは」
美登利に渡されたメモには、池崎正人がヒントのある場所を辿って最終目的地へ至るまでの経緯があらかじめ記されてあった。
「なにって試練だよ。若者には試練が必要だろう」
「池崎正人の能力がどれだけのものか知りたい」
安西の後ろから口を出したのは剣道部主将の尾上貞敏だ。
「私を利用するつもり?」
「とんでもない。言ったはずだよ、大いに楽しんでくれってね」
このタヌキ。罵ってやりたいのはやまやまだったが。
「せいぜい高みの見物してなさい」
踵を返して歩き出しながら美登利は後ろに付いてきていた片瀬に指示した。
「二班に連絡。図書館に急行、図書委員と連携して池崎正人を捕獲せよ」
「はい」
友人の身を慮ってか、このときばかりは片瀬も一瞬複雑な表情を見せた。