16-6.中川巽

文字数 988文字

「写真?」
「美登利さんの小さい頃の。前も訊いたじゃないですか」
「ああ、うん」
 目を開けて淳史は顎をかく。
「写真を撮る習慣がそもそもないからな。カメラだってないっていうのに」
「昔もですか」
 食い下がる拓己に根負けしたように淳史はうーん、と考える。

「もしかしたら、だけど。本棚探してみてよ。昔昔のチラシが出てくるかもしれない」
「チラシ?」
「観光組合で新しい写真館がオープンしたときモデルを頼まれたんだ。すごく可愛く撮れてたから捨ててはないと思うんだよなあ。まあ、探してみなよ」
 言って淳史は仕事に戻っていった。

「だってさ、池崎」
「こん中からチラシ一枚捜すのかよ」
「美登利さんの弱点見つかるかも」
「……」
 一冊一冊、本や薄い冊子類を抜き取りながらふたりはチラシを探した。

「これじゃない?」
 思ったより早くに拓己がそれを見とがめた。
 A4サイズのカラーチラシ。きちんとクリアファイルに入れてある。無色透明だからそのままチラシの内容を見ることができた。

 ウェディングドレス風な白いドレスを着た小さな女の子と、モールの付いた将校さん風な詰襟を着た少年が一緒に写っていた。

「かわいい」
 女の子の方は今より面差しが格段に穏やかな中川美登利だとわかる。
 三歳くらいだろうか。あどけない笑顔、まさしく天使。

 少年の方は……、
「これ、一ノ瀬さんかな」
 拓己はそう言ったが、正人は澤村祐也かと思った。
 しかしどちらにしても年齢が合わない。どう見ても美登利よりずっと年上だ。

「ということは」
 考えられるのは、中川巽。
「おまえ見てわかんないのかよ」
「まともに話したことないからなぁ。いつも遠目にしか」

 美形なのは同じだがあまり似ていない。茶色がかった柔らそうな髪に茶色の瞳。
 中川巽は柔和なイメージの少年だ。やっぱり澤村祐也に似ている。

 思っていたら淳史が戻ってきた。
「お、見つけたの。それそれ」
 仕事は終わったのか法被を脱いでワイシャツのボタンをはずしながら淳史はこたつに座った。

「これ、巽さんですか?」
「そうだよ。兄妹でぜひって、コンセプトは七五三だったんだけど結婚式な感じになっちゃって、それも可愛いねって」
 話しているうちに思い出してきたのか淳史は段々饒舌になってきた。
「そうだ、そうだ。この後ちょっとした騒ぎになってさ、いろんな人の目に留まっちゃってスカウトみたいなのがたくさん来て」
「へえー」
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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