24-1.最後の体育祭

文字数 988文字

 その日の朝、中央委員長中川美登利の顔色を一目見て、坂野今日子は彼女の体調が悪いことを見破った。
「大丈夫、ちょっと寝不足なだけ」
「ですが……」
「大丈夫!」
 ぴしゃりと言われて今日子は迷う。

 後ろからこっそり一ノ瀬誠が言った。
「止めても無駄だよ、最後の体育祭なんだ」
 そう、その日は三年生の自分たちにとっては最後の体育祭だった。




『やってまいりました! 体育祭! 今年も例年通り全校生徒が二チームに分かれての紅白対抗となります。まずは両チームの総大将をご紹介しましょう。紅組総大将は体育部長にして「万能の人」安西史弘! そして白組総大将は剣道部主将、尾上貞敏。昨年共に白組を優勝に導いた盟友同士が、今年は相争うとあっては熱いドラマを期待せずにいられません! その他の注目選手は……』

「森村、プログラム見せてくれ」
「自分のはどうしたのさ」
「忘れた」
 ふう、と森村拓己は池崎正人に自分のプログラムを渡す。

 正人がそれを確認するより先に三年生で陸上部の川野宏一に声をかけられた。
「スウェーデンリレーの三百メートルおまえだろ、今年は負けないからな」
「うっす」
「お互い頑張ろうぜ」
 アンカーが安西じゃどうにもならんけどな、と肩を竦めつつ川野が言う。

「ノーマークだった去年とは違うよな。大丈夫か、池崎」
「大丈夫の意味がわからん。目一杯やるだけの話だろ」
 うーんと伸びをしている正人を拓己は引っ張る。
「競技が始まる。用具の準備手伝わなきゃ」

 体育祭実行委員会の腕章を付けている正人たちはどこへ行っても仕事を言いつけられる。
 玉入れに使う籠を運んでいると安西が手伝いに来てくれた。
「やあやあ、ありがとう」
 言いつつ安西が籠を背負ったので正人はびっくりした。総大将自ら鬼の役をするとは。

 そう、青陵の玉入れは移動式玉入れというやつである。敵チームの鬼が籠を背負って逃げるのである。

 安西の登場にどよめいた白組だったが「玉を投げられるよりマシだよな」と一部の人間は胸をなでおろす。
 だが競技が始まるとそうも言っていられなくなった。
「くそ、やっぱあれ反則だ! 全然入らない!」
 逃げ足が速すぎる。
 勝負を投げかけた白組メンバーだったが。

 ポスポスっと玉が入った音に安西が驚いて足を止める。
「今だ、狙え」
 隙をついて集中砲火で玉が浴びせられた。
「おっと」
 再び走り出した安西の籠に、また玉が投げ込まれる。
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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