16-7.新しい年

文字数 984文字

「中川さんはそういうの一切許さない人だから金輪際こんなことはやめてくれって怒っちゃってさ。気持ちわかるけどね、子どもがこれだけ目立つんじゃ心配というかなんというか」

 籠からみかんを取って皮をむきながら淳史は続ける。
「さいわい巽くんもみどちゃんも賢いからさ、身の処し方っていうのが上手いからその後騒ぎもなくなったけど。美形に生まれたら生まれたで苦労があるんだね」

「あんまり似てないっすよね」
「ん? そうかな。まあ、写真で見たらそうかもね。顔のつくり自体は巽くんはお母さん似だしみどちゃんは親父さん似だし。でもやっぱりふたり一緒にいるとこ見たらさ、兄妹だなってわかるよ。空気感というか雰囲気というか」

 みかんを口に入れた淳史はすっぱかったのか軽く眉を寄せ、そのままの表情で拓己と正人に注意した。
「これ見たことみどちゃんには黙ってた方がいいよ。僕が飾っておいたの見つけて怒られたことがあるから。だから適当にしまいこんじゃったんだよ」
「なんで怒るんですかね?」
「さあねえ、恥ずかしいって言ってたけど」


 それから後は年末の番組を見ながら話をしていてそのまま眠ってしまったらしい。
 くしゅんとくしゃみをした自分に驚いて目が覚める。
 ぼんやりと目を開けると中川美登利がこたつに座って正人を見ていた。

「大丈夫?」
「……」
 自分がどこにいるかを思い出すまで時間がかかった。
「何時? 年明けた?」
「もう明け方の四時だよ。初詣行くかと思って来たんだけど」

 話していたら仕切りの襖を開けて拓己が顔を出した。
「あけましておめでとうございます」
「おめでとう」
「おめでとう。なんで自分だけ布団で寝てんだよ」
「池崎言っても起きなかったんだよ、運んでやるほど親切じゃないし」

 ふふっと笑って美登利が誘う。
「初詣行く? ご来光にはまだ早いけど」
「行きます」
「淳史くんは寝かせとけばいいよ」

 まだ暗い道をライトを照らしながら歩いた。
 中途半端な時間だからか神社には人気がなかった。
 賽銭を入れて鈴を鳴らし柏手を打つ。
 正人と拓己が参拝を終えても美登利は長いこと手を合わせていた。その姿を見ながら思う。

 まだ出会ってから一年も経っていない。なのに随分といろんな目に合わされて、いろんな気持ちにさせられて、こうして一緒にいる。なんだか不思議だ。

「今年もよろしく」
 拓己が言う。
「よろしく」
 新しい年が始まった。
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登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

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