23-6.「私に勝ったらね」

文字数 953文字

 ――中川先輩、誰と乗ったのかな。
(誰って……)
「そんなの、関係ないし」
 ひとりごちて、正人はぐっとこぶしを握った。




 翌朝。
「やあやあ、中川委員長。相談があるんだがね」
 体育部長安西史弘に呼び止められて、中川美登利は眉をひそめる。
 大体が安西の相談はろくなことがない。
 やっぱりな内容に美登利はため息をついたが、仕方がないと頷いた。

 昼休み。ピロティーに人だかりができている。
 パックのお茶を飲みながら池崎正人は拓己とふたりで近づいてみる。
 中心には中川美登利がいた。今日子と並んでその後ろに控えた片瀬が正人たちに向かって目くばせする。ぴくっと拓己が反応した。

 後ろからやって来たのは安西と尾上貞敏だ。ふたりに引っ張られて一年生の平山和明が連れてこられた。
「やあやあ、お集まりの諸君」
 おもむろに日の丸の扇子を開いて安西が声を張り上げた。

「ご存知のようにわが校は、祭りの時期を迎えようとしている。諸君が心置きなく準備に集中できるよう、皆の懸念事項をひとつこの場で取り除いておこうと思う。さあ、平山くん!」
 閉じた扇子で中央委員長を差して安西はにやりと笑う。
「舞台は上々、思いの丈をぶつけてくれたまえ」

 まわりの観衆から頭一つ突き出た平山和明が中川美登利の前に立つ。
「昨日はすみませんでした」
 長い体を折って頭を下げる。
「改めて言います。オレと付き合ってください!」
「いいよ」

 ざわめきと共に和明が「は?」と顔を上げる。
「私に勝ったらね」
「そんなの……あんたはケンカだって強いし」
「そう、だからじゃんけんで勝負しましょう」
 こぶしを目の前に翳しながら美登利はにこりと笑う。
「じゃんけんは平等だからね。あなたが勝ったらお付き合いしましょう。ただし、あなたが負けたらそのときは、下僕になってもらうよ」

 正人と拓己はこっそりと視線を交わし合う。
「いいぜ。じゃんけん勝負で」
 和明の返事に美登利は満足そうに微笑む。
「これはもう、美登利さんの必勝パターンだね」
 小声で拓己が言う。
「でもじゃんけんだろ、勝率百パーセントってわけには……」

「持ってくんだよ、勝率百パーセントに」
 小声でつぶやく正人の後ろからやっぱり小声で一ノ瀬誠が会話に入ってきたから、ふたりはびくっと飛び上がった。
 気配なく後ろに立つのはやめてほしい。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

・池崎正人


新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。

・中川美登利


中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。

・一ノ瀬誠


生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。

・綾小路高次


風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?

・坂野今日子


中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。

・船岡和美


中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。

・澤村祐也


文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。

・安西史弘


体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。

・森村拓己


正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。

・片瀬修一


正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。

・小暮綾香


正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。

・須藤恵


綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

・宮前仁


美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。

・錦小路紗綾


綾小路の婚約者。京都に住んでいる。

・志岐琢磨


喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。

・中川巽


美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。

・榊亜紀子


美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。

・村上達彦


巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み