39-4.「言いすぎました。ごめんなさい」
文字数 1,041文字
数日後には池崎正人が来た。
「坂野先輩が教えてくれて」
やっぱり泣きそうな顔をしてベッドの脇に座った。
「おれのせいだね」
「誰かのせいなんてないんだよ」
力の入らない声だが話すことができた。
「罪悪感を感じるなら、それはおれのせい」
正人が言うのに美登利は力なく笑う。
「そう言うなら先輩だってそうだ」
静かに正人は話し続ける。
「おれが先輩を好きで、それでなにをどう感じようとそれはおれのせいで、それを先輩が自分のせいみたいに言うのはおかしい」
かすかに美登利は目を見開く。
「傷ついたならそれはおれのせい。先輩の責任なんかじゃない。そんなふうにおれの恋を邪魔しようとするのは、あなたの思い上がりだ」
驚いて眉を寄せる美登利に、正人はすぐに笑って見せた。
「言いすぎました。ごめんなさい」
いつか聞いたセリフに美登利も頬をほころばせる。
「池崎くんていいよね。男の子らしくて」
「おれのこと好き?」
黙って頷く。でも、といいかけるのを正人は顔をしかめて遮った。
「なにも言わないで。あとはおれが考える。あとはおれの問題だから。だけどひとつだけ許して。そばにいていいよね?」
「考えておく」
「……狡いなあ」
目を上げて正人は室内の様子を見渡す。
「先輩の部屋って物がないね。寮の部屋みたい」
「小暮さんのお部屋は女の子らしく可愛らしいんでしょうね」
「それ、仕返し?」
「……」
彼女が疲れた様子だったから正人はそっと立ち上がった。
「帰るよ」
そこでようやく後ろの机の上に飾ってあるものに気がついた。
スタンドに正人が贈ったオーナメントが下がっている。素直に嬉しい。
だが、
(どうしてもうひとつあるんだ)
猛烈に気になったが美登利はうとうとしだしていて訊けなかった。
そうはいっても彼はいずれ小暮綾香の方へ戻るのだろうな。
浅い眠りの中で美登利は考える。
欲深くあれもこれもと欲しがったところで、しっぺ返しのようになにも手には残らない。
巽は離れていった。誠だって本当は……。
思っていたら本人が目の前にいた。
「勉強は?」
「試験終わったよ」
「そうか」
他人事ながらほっとした。実は自分も気を張っていたのだと気がついた。
目が熱くなる。
「なにをやってるんだ、おまえは」
「ねえ」
「みんな心配してる」
「うん」
「卒業までには元気になれよ」
頷いてから、言ってみた。
「どこに遊びにいくか考えておいて」
「俺が決めていいのか?」
「たまにはね」
彼はいつだって自分の言うことを聞いてくれる。たまには彼に決めさせてあげなくては。