4-5.「賢いのにほんと馬鹿だよなあ」
文字数 944文字
「誰?」
「北部高校の宮前仁さん。うちの中等部出身で、今は櫻花連合の総長もやってる」
「櫻花連合?」
「不良グループの集まりっていうのかな、代々北部高に本部があるんだって」
ということは喧嘩が強いのか。宮前のスキのない立ち姿を正人は無意識に観察してしまう。
話がまとまったのか、宮前が伴ってきた手下三人が正人が捕まえた三人を連れていく。誠たちに別れを告げ、歩き出そうとした宮前の肩を美登利が呼び止める。宮前が振り向きざま、その頬に渾身の平手が飛んでいた。
「お、まえな。いきなりなにすんだよ、痛いだろ!」
それまでのクールさをかなぐり捨てて宮前が叫ぶ。
「殴られたって文句は言えないでしょうが! 男どもがやらないから私がやったの」
腰に手をあて怒る美登利の肩越し、誠と綾小路が表情だけで宮前に謝罪している。
「自分の役目を忘れてないでしょうね」
「わかってる。だからこうして飛んで来ただろ」
「うちの生徒にケガ人が出てたらこれくらいじゃすまなかったよ」
「わかってる」
がしがし頭を掻いていたかと思うと、宮前が正人に視線を向けた。
「連中のしたのあいつだろ? 拓己じゃないほう」
「池崎正人くん」
蹴り飛ばしたのはあんただろうが、と無言で訴えてみたが美登利は知らん振りだ。
「よろしく、池崎。オレは宮前仁だ」
「はい」
にやりと笑って宮前は正人の手を握る。それを見ていた美登利が懸念の表情を浮かべたのに正人はまるで気づかなかった。
数日後、宮前から報告を受けた一ノ瀬誠は綾小路と連れ立って出かけていった。
「あいつらが授業が終わると同時に出ていくなんて珍しいな」
教室に残って雑談している男子たちの会話を聞くともなしに聞いていた船岡和美は、坂野今日子が手にしている用紙に気づいて腰を上げる。
「まさか坂野っち、夏休みの講習受けるの? 全科目? 必要ないじゃん」
「そんなことありません。美登利さんがどこへ進学しようとついていけるよう、できるかぎり学力を上げておかないと」
「は、だったらあたしも! 申し込み用紙ちょうだいよ」
「おまえらって、賢いのにほんと馬鹿だよなあ」
評する声は、騒ぐ和美の耳には届かなかった。