14-4.「幼馴染だからな」
文字数 895文字
「誠の本性ほど恐ろしいものはないからな。俺はそう思ってる」
片眉を上げて更にこぼす。
「こないだなんか、いきなりみかんの皮顔にぶつけられてよぉ。怒ってんなら口で言やあいいのにまったく陰湿なんだ、あいつは」
「仲いいっすね」
「おう。幼馴染だからな」
店から出てすぐに目に入った花屋の店先に正人は寄っていく。ついて来た小暮綾香を振り返る。
「今度は自分で選ぶんだろ」
「うん」
綾香は嬉しそうに笑う。
「わあ、バルーンがついてるのもあるよ。かわいい」
「須藤もどれか選びなよ」
拓己が言ってくれたのに恵はふるふると遠慮する。
「私はちゃんとプレゼントもらったよ」
ちゃんとの部分を強調して正人にプレッシャーをかける。そんな恵の肩を苦笑しながら拓己がぽんぽんと叩く。
「まあまあ。ほら、選びなよ。この辺の小さいのでよければ」
「綾香ちゃん、どうする?」
「うーん……」
ピンク色のバラ。植物園で見たような大輪の。
そんなバラを探して切り花のコーナーに向かう。バラだけでもたくさん種類があった。
色とりどりでこれでは目移りしてしまう。
そんな綾香の後ろから、すうっと腕が伸びた。
「恋人に贈るなら、赤いバラだよね」
ひと際深い真紅の一本を手に取って、その人は綾香に笑いかけた。「ね?」とスタッフにも同意を求める。
「そうですね。クリスマスカラーでもありますし、この時期人気です」
「僕も好きな子にあげたいけど、会えそうもないから母にあげようかな。予算これくらいで作ってくれる」
どう見ても年上。大学生な感じだ。花束を待つ間、見知らぬその人は更に話しかけてきた。
「君ら高校生だろ。どこの学校?」
「青陵です」
彼の微笑みが深く深くなる。
「ふうん。いいね、楽しそうで」
花束を受け取って、彼はもう一度四人を顧みた。
「可愛らしいお嬢さん方にはピンクやオレンジのほうがいいのかな。それじゃあ」
花束を持つ姿がサマになる。
「かっこいい人だねえ。佐伯先輩とどっちがイケメンかな」
言ってしまってから拓己の前で失言だったかと恵は彼を窺い見る。
「あの人、見たことある」
拓己はなぜか固い表情でその人を見送っていた。