女神のセイレーン
文字数 1,686文字
一成なんか特に生徒を巻き込んだ、と激しい叱責を受けていた。勿論の事、歌音たちも同じぐらいの叱責を受けた。反省文原稿用紙一〇枚分書かされた。
くっそー……。手が痛い。
原稿用紙の半分ぐらいが、ごめんなさい、すみません、申し訳ありません、もうしません、で埋まったのはある意味すごいと思う。
この間休んでいた鈴華、渚、巧の姿もある。
歌声は、全て吹っ切れたかのような雲のない青空に似ていた。
何故、マーチにしなかったのか分からないが、これはこれでいいだろう。
もうすぐ六月……。時間はそこまで残されていない。だから、 歌音は後の二ヶ月で出来ることをやる、やるべきことを遂行する、ただそれだけだ。
まずは、「太陽のワルツ」。
四分の三拍子……三角に振るのがベストだと思う。
途中からトランペットが入り、鮮やかさがます。
ホルンとテナーサックス・ユーフォニアム・トロンボーンの裏メロ、土台となるチューバ・バスドラム・シンバルの重厚な支え。
曲は、中盤のサックスのソロ、白川結愛に託される。
途中からE♭クラリネットとピッコロの高音の踊り。
明里ちゃんと里紗のリズミカルで太陽の光が踊っているかのようなイメージを醸し出すが、どのソロも何か足りない。
その次は、トランペットのソロ。圭くんが丁寧に感情を込めて吹き上げた。
最初に吹き上げたフレーズを金管楽器隊が、細かな連符のフレーズを木管楽器隊と鍵盤楽器が、リズムを打楽器隊がやり、最後のファンファーレで舞踏会の終わりを告げた。
そういえば……トロンボーンの音が小さかったかも……。
ロバート・ジェイガーが、妻への愛を綴った曲。所謂、ラブレターってやつだ。
穏やかな所は、夜の静けさを表しているかのような曲。
それに関しては、出来ている人と出来ない人がいるとの事で、パート練習で固めてもらうことにした。
湖で出会った凶暴化したセイレーンではなく、女神のセイレーンだ。
昨日まで敵対していた鈴華と、今日には友達になれたこと……。確かに昨日の敵は今日の友……。