縁の下の力持ち
文字数 2,320文字
再びミラージュ音楽学園高等学校吹奏楽団に平和な日常が戻ってきた。世界は、混沌に満ち溢れているけれど、ここに今日、聡太が復帰したのだ。演奏会までそれほど時間は残されていないけれど、このメンバーなら出来ると歌音は確信したのである。
2017/09/01 13:40
この日の合奏の時間を迎える。聡太は今日まで休んでいたのだからあまり無理をさせることはできない。歌音は、聡太にある指示を出した。
2017/09/01 13:51
聡太くん……あまり無理して吹かなくていいよ。まだ退院したばかりだから……休憩しながらでいいのよ?
2017/09/01 13:52
大丈夫だ。俺はもう大丈夫。体調は万全だ!!
2017/09/01 13:53
そう……あまり無理はしないでね。「マナティー・リリック序曲」の最初のオープニングからお願いします!!
2017/09/01 13:58
はい!!(全員)
2017/09/01 14:44
最初のオープニングが響き渡る。「マナティー・リリック序曲」……波の煌めきをフルート・ピッコロ・クラリネット・オーボエが連符の掛け合いで表し、金管のファンファーレがイベントの開会を告げる。今まで一人足りない状態で奏でていた音楽も一人が増えると濃厚さが増して聞こえてくる。チューバが詩織が一人の時より重厚さが増して、音楽の支えもとてもバランスがよくなっている。チューバは、楽団の縁の下の力持ちだ。姫巫女の力が弱いので木こりが支えを維持している状態だった。詩織にも何か隠している事があるのだろう。この音楽を聞いていた歌音は、詩織の事について少し悩むことになる。聡太が覚醒したが、詩織の覚醒がまだだということに気がついたのだ。
「三日月の舞」……トランペットのhighB♭のソロと低音楽器の軽快なリズミカルなリズムが目立つ難易度の高い楽曲。聡太が苦手としている楽曲で詩織が得意としている楽曲。正反対の二人であるが、二人でこの曲を協力して乗り越えたのだ。これが、助け合いの力なのだと歌音は痛感したのだ。圭のソロも完璧になってきたのだ。フルート・クラリネット・オーボエの連符も一体感が出てきており、綺麗に粒も揃っていたのでよしとしよう。
「はとポッポの世界旅行」……各楽器の見せ所がある楽曲。これは、スタンドアップ形式でやっていこうと決めたのである。最初のファンファーレは、みんな一緒なので座ってやろうということになったのだ。クラリネット→フルート→トランペット→トロンボーン→ユーフォニアム→チューバの順に立つことになったのだ。ソロは、その都度立つことになった。
「森のスケッチ」のアンサンブルもほぼ完成に近づきつつあった。
もうすぐで完成だ。歌音にとっても嬉しくなったのであった。
2017/09/01 14:45
歌音さんのお陰で俺が俺じゃないような演奏をすることができたよ
2017/09/01 17:09
それはよかったわ。聡太くんが吹いてたチューバのユニゾンとても良かったわよ。次回もあれぐらいでお願いね
2017/09/01 17:20
でも、歌音さんはどうして指揮者になったの?
2017/09/01 17:25
これは、私にしかできない仕事だから。聡太さんもそう思ったでしょ? 相馬先生でも音楽は楽しいけど私の指揮の方が楽しいって……
2017/09/01 17:27
確かにそれは思ったことだ。そして、次は詩織を助けてほしいんだ……俺一人だと今回は無理みたいなんだ。今回は、歌音さんと圭さん・悠さん・明里さんの手伝いが必要なんだ。出来れば、結愛さん・勝己さんの力も借りたい。猫の手も借りたい、ということわざがあるだろう
2017/09/01 17:28
確かにそういうことわざは聞いたことあるけど……。詩織ちゃんに何か脅威が迫ってるの?
2017/09/01 17:35
あぁ、迫っているんだ。このままだと近い未来で詩織が死ぬことになっている。だから、その死亡フラグをへし折るのを手伝ってほしいんだ。歌音さんは、今までの死亡フラグをへし折ってきたと勝己さんから聞いている
2017/09/01 17:37
ちょっと待って、聡太くん!! もしかして前回の周回の記憶が残ってるの?!
2017/09/01 17:40
一部だけなのだが、詩織が死ぬというのは最近知ったことなんだ。何て言うか詩織が自分で言っていたんだ。「近々殺される」って……俺は聞いているんだ
2017/09/01 17:42
これは、初耳だ。曖昧な記憶だけが残っているパターンは初めてだ。詩織が自ら「近々殺される」と言ったのも、詩織にも前回の周回の記憶が残っているからに違いなさそうだ。聡太の情報を頼りにこの日から歌音は、動き始めるのであった。
2017/09/01 17:44
歌音は、詩織を探してチューバのレッスン室前に来た。詩織の奏でるチューバの音色が廊下に少しだけもれている。音色は、とても悲しげで寂しさを感じることができた。
気がついたときには、レッスン室の扉が開き、詩織が顔を覗かせていた。歌音と詩織の視線がぶつかり合う。ぶつかり合った視線は、すぐにそらされてしまう。どうしてそらすのかは分からなかったが、歌音にとっては、少し寂しさを覚えてしまった。
詩織は、重たい口を開いた。
2017/09/01 17:46
歌音さん……聡太さんから聞いてしまわれたのですね。私が近々殺される、って話……
2017/09/01 17:50
うん……聡太くんから聞いたわ
2017/09/01 17:51
でも……歌音さんには関係のない話よ。私が足を引っ張っているって分かっているから……
2017/09/01 17:51
そんなことない!! 詩織ちゃんは頑張っているよ!!
2017/09/01 17:52
ありがとう、歌音さん。でも、歌音さんには迷惑はかけられないわ。これ以上は、音楽以外で干渉してこないで下さい!! これだけはお願いします
2017/09/01 17:54
詩織はこれだけを言い、レッスン室に鍵をかけて閉じ籠ってしまった。歌音は一人、レッスン室の前に取り残されてしまった。レッスン室に閉じ籠った詩織は、誰にも聞こえないように呟いた。
2017/09/01 17:56
これ以上は、歌音さんのお荷物にはなりたくない……だったら、私は自分の運命と抗うだけ……
2017/09/01 17:58
この思いは誰にも届かない。歌音にも聡太にも……クラスメイトたちにも……。詩織の秘められた思いとなってしまったのであった。
2017/09/01 18:01
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)