涙のわけ
文字数 1,178文字
今は、夜九時すぎ……。
今頃、みんな必死に合奏しているんですよね……。本当にごめんなさい、歌音……。スマートフォンのメールの確認をするとその相手は、歌音だった。
眠っている勝己の頬に手を触れてこう伝える。
結愛たちは、崖から滑落したのだと思いますわ……。こんな天候なのに歌音たちは来てくれる。結愛たちは、恵まれてますわ。
しかし、歌音たちに何かあったら……と思うと不安になってしまう。涙も止められない。勝己が死んでしまったら結愛は……。
結愛の嫌な記憶を呼び覚ます……。母・父と結愛たちははぐれてしまったとき、たまたま雷がなった。それが怖くてあの時は怯えていた。そして、泣いていた。圭と結愛は泣いていて、悠は泣くのを耐えていた。
結愛たちを安心させる為、震えた声で大丈夫、とずっと言ってくれていた記憶がある。
しかし、今はダウンしてしまった勝己と結愛だけ……。誰も抱き締めて大丈夫、と言ってくれる人もいない。怖い……。
誰か大丈夫、といって安心させて……。雷だけはダメなの……。
しかし、肝心の勝己は目を覚まさない。手を握りしめると温かい……。大丈夫……生きている……。
だから、結愛も生き抜きたい……。
でも、兄たちは助けに来てくれるの?結愛は、もうダメなのかもしれない……。そう思ったときだった。
誰かが結愛たちを呼ぶ声が聞こえる……。良かった……。
結愛は、安心したところで意識を失ってしまった。