10月定例コンサート⑤
文字数 2,046文字
歌音は、更にメンバーに指示を仰ぐ。
余裕がない歌音は、自分を見失いそうになっていた。全ての音の濁流に飲まれそう…… 、そんな感じだ。音の濁流が歌音に迫る。
その時だった。ユーフォニアム・チューバの音色によって歌音は現実に戻ってくることが出来る。
暫くすると、会場内に盛大な拍手の波が沸き上がった。
ここまでくれば一安心だ。舞台の証明が少し暗くなり、放送部の女の子が出てき、マイクを手にした。
歌音が絶対に見てはいけない人の感情の流入…… それが、歌音の平常心の崩壊が始まるのでもある。
それに気がついたのは、圭ではなかった。悠でもなければ明里でもない。
始まる。三日月の精霊による華麗なる舞が……。
今、この瞬間にも心に闇を宿してしまった人がいる。音楽は、その闇を祓うことが出来る一部の人だけに与えられた最大級の力だ。その力を持っているのが、この数少ない楽団の一つである「 ミラージュ音楽学園高等学校吹奏楽団 」である。
歌音が、指揮を振り下ろした。
高らかで勢いのある金管楽器のファンファーレが鳴り響く。音割れもなく、音の伸びもちょうど良いぐらいのファンファーレだ。その後、木管楽器がファンファーレを彩るようなキラキラとした音の粒を落としていく。まるで、三日月の精霊の魔法のように……。
中盤、一度曲が落ち着きを取り戻す前、クラスメイトたちの奏でる楽器の残響がホールに鳴り響き、キラキラとした音の粒に変化し、観客席に降り注いだ。
そして、トランペットソロを担当している圭のソロが始まる。パーン、と音が綺麗に鳴り響き、観客席の人たちをも圧倒する。さすがは、プロのトランペット奏者というだけの意味はある。歌音は、圭に向かって指揮を振る。そして、とある指示を出した。
そのまま観客たちにとっては大盛況となった定例コンサートは幕を閉じた。
しかし、その後ぐらいから圭の様子が少しおかしかったのを歌音は覚えている。話しかけてもそっけない態度で返事を返されたのも忘れることができない。
そして、後にこの事が歌音にとって最大の黒歴史であり、歌音にとって圭がどれだけ大切な存在か思い知らされる事件が発生する。
その時は、刻々と迫っていた。その事を歌音は、まだ知らない、